熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2003年8月5日号
第55回: デート
from Ako  to Ako 
Most humbling moment: placing this ad.
「最も屈辱的な瞬間:この広告を出したこと」


友達のナオミ(アメリカ人)が近く結婚する。相手のトニーとはインターネットの出会い系サイト最大手マッチ・コムで去年の夏出会った。私はナオミが同サイトに個人広告を登録し、ずらりと並ぶ男性の顔写真の中からトニーにひとめぼれ、Eメールを送ったところに立ち会っていた。初デートの日も覚えている。その後デートを重ねて同居、婚約、そして晴れて結婚とあいなった。私も感無量である。

この連載の最初の頃にマッチ・コムについて書いたが、その後、出会い系サイトの成長は著しい。最近のニューヨーク・タイムズ紙の記事によると、2003年5月、online dating sites 「出会い系サイト」を訪れたアメリカ人は4500万人。これは昨年12月と比べただけでも3割増だそうだ。今年第1四半期に出会い系サイトに費やされた会員料金総額は何と1億ドル以上が見込まれている。01年の同時期に比べて10倍以上の伸びとのこと。

ナオミとトニーの幸せそうな様子につられて私も最近出会い系サイトに個人広告を出した。バツイチの私、一人で頑張っているが、再婚に夢を持っているのだ。マッチ・コムはあまりにはやっていて、知り合いに見つかると恥ずかしいので違うサイトにした。私がよく行くニュースのサイトにサロン・コムというサイトがあり、Salon Personals 「サロンパーソナル(恋人探しの個人広告の意味)」のセクションがある。私が登録したのはここ。サロン・コムが直接運営しているわけではなく、ニューヨークのインターネット会社が様々なサイト上でサービスを展開しているらしい。

まだ根強い心理的障害

必要な項目に記入、写真も出して、サロンパーソナル上で私の個人広告がきちんと現れるのを確認。メッセージが来るのを待つ。翌日からぼつぼつ来始めた。うれしい!大体皆さん、If you would like to contact me, I would love to hear from you.「私にコンタクトしたければ、ぜひ連絡をいただきたいです」とかCheck out my profile and let me know if you would like to chat. Have a great day! 「僕の広告をチェックしてみて、もしチャットしたければ連絡して。良い一日を」とかいう簡単なメッセージをくれる。

そこでそのメッセージ主の広告を見るのだが、サロンパーソナルの特色は会員の年齢や職業のほかにいろいろな質問に答える必要があること。例えば、Last great book I read 「最近読んだ素晴らしい本」とかBest (or worst) lie I’ve ever told 「これまでで最高の(または最低の)うそ」とかThe five items I can’t live without「これなしでは生きていけない5つの物」などへの答えが広告の一部になっている。いろいろな人の広告を見ると、Most humbling moment 「最も屈辱的な瞬間」にPlacing this ad 「この広告を出したこと」と答える人が多い。ポピュラーになったといっても、出会い系サイトへの心理的障害が根強いのは確かだ。

メールをくれた一人の男性の広告を見る。40歳で広告カメラマンの彼が最近読んだ本は、’The Quiet American’ by Graham Greene.「グレアム・グリーンの『おとなしいアメリカ人』」、なくては生きていけない5つはMy thoughts, my feelings, my observations, my experiences, and a means of expressing them. 「私自身の考え、感情、観察、経験、それらを表現する手段」とかっこいい。デート相手に何を求めるかについては、I have been divorced for about 2 years, and am finally ready to ease my way back into the dating scene. I would love to meet someone to go to less-than-mainstream movies with, to shoot a few games of pool with, to commiserate with about our various war stories, or to just spend some time getting to know over a beer or a cup of coffee. 「2年前に離婚し、やっとデートを始める気になりました。メーンストリームでない映画に一緒に行き、ビリヤードを一緒にプレーし、お互いの離婚に関する逸話で哀れみ合い、ビールかコーヒーでも飲みながら一緒に時間を過ごせる人に出会いたい」と言う。それでこの人と1度お茶を飲んだ。誠実そうな人で楽しかったが、仕事の面接のようで緊張し、疲れてしまった。

500問以上の心理テスト

この話をナオミにすると、「サロンは若い人向けよ。結婚を目的にしてデートしたいならこのサイト」と教えてくれたのが、Eハーモニー・コムだ。心理学者が主宰しているというこのサイト、トップページにFall in love for all the right reasons 「すべての正しい理由で恋に落ちましょう」と逆説的な文句。

同サイトの宣伝文にはこうある。Unlike online dating services, eHarmony will match you with singles who are compatible not just on the surface, but also in the deep and important ways that truly matter in a relationship. Then you get to have fun discovering the chemistry. 「他の出会い系サイトと違い、Eハーモニーは、表面的だけでなく、関係性に本当に必要な深く重要な事柄であなたにふさわしいシングルの方をご紹介します。その後あなた自身が相性が合うかどうかを楽しんで判断してください」とのこと。会員になるにはサイト上で無料でできる心理テストを受ける必要がある。その結果によって、同サイトのスタッフがふさわしい会員を写真抜き(容姿は表面的だからか)で紹介してくれるそうだ。

私もこの心理テストをやり始めた。まず、私自身の性格判断をするのだが、様々な性格の要素、例えばHumorous 「ユーモアがある」、Efficient「効率的」、Sensitive「繊細」、Under-Achiever「劣等生」、Generous「気前が良い」、Uncomplicated「単純」などについて、not at all「全くそうでない」、somewhat「多少そうである」、very much「非常にそうである」の間で選ぶ。やりだしたのはいいがなかなか終わらない。調べると500問以上の質問があるそうで、うんざりしてしまい、途中でやめてしまった。正しい理由で恋に落ちるより、取りあえず気軽なデートを楽しむのが今の私には合っていると思った。

(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)