熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2003年8月19-26日号
第56回: ハリー・ポッター
from Ako  to Ako 
"Has the obsession with Harry Potter gone too far?"
「ハリー・ポッターへの執着は行き過ぎでしょうか」


ハリー・ポッター・シリーズの第5巻「Harry Potter and the Order of the Phoenix」(邦題「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」で来年刊行予定)が6月末発売された。米国版870ページの大冊だが、発売日だけで売上げが全米で500万部を突破。全国紙USA Todayのベストセラーリストでは、発売以降ずっと首位にある。第1巻から4巻もすべて同リストのベスト30に入っている。大変な人気だ。

実は私、どの巻も読んだことがない。子供向けの本だと思って眼中になかったのだ。35歳でカナダ人の友人サムにそう言うと、激しく憤慨。最新刊を含め全巻読破しているサムは、「大人こそ楽しめる内容なんだ・読み出すとやめられない」と力説する。ボストンからトロントへの飛行機の中で第4巻のヤマ場にさしかかり、目的地に着いた後も読み続け、席を立てなくなってスチュワーデスを困らせたと明かす。

ハリー・ポッターの地元はイギリス。BBC(英国放送協会)のニュースサイトには、The Harry Potter Phenomenon「ハリー・ポッター現象」のコーナーがあった。ファンのためのチャットや掲示板のほか、著者J・K・ローリングに関するニュース、クイズや写真などが満載されていた。最新の話題は、イギリス女性最高の知性と呼ばれる作家A・S・バイアットが7月にハリー・ポッター・シリーズを批判するコラムをニューヨーク・タイムズ紙上に掲載したこと。同サイトによると、バイアットはコラムの中で、Harry Potter books were for people whose interests are confined to the worlds of soaps, reality TV and celebrity gossip. 「ハリー・ポッターの本は、ソープオペラ、リアリティーTVショー、有名人のゴシップにしか関心がない層のためにある」などと書いているそうだ。

同サイトではバイアットのコラムの内容に関して、Has the obsession with Harry Potter gone too far?「ハリー・ポッターへの執着は行き過ぎでしょうか」と質問を投げ掛け、読者が書き込みできるようになっていた。イギリスのSimonさんは、They are thinly characterized, unoriginal, poorly written and very derivative. You’ve got to hand it to the marketing men. 「これらの本は登場人物の描写が浅く、独創性に欠け、模倣が非常に多い。マーケティング専門家に任せなければどうしようもない本だ」と言い、バイアットに同意する。

全巻各章の粗筋ずらり

一方、イスラエルのOmriさんのように、Personally, I’ve never heard of AS Byatt, but I KNOW that most people have heard of JK Rowling, and many people (ex: me) love the Harry Potter series. I think Byatt is jealous because Rowling is a more famous and skilled artist than her. 「個人的にA・S・バイアットの名前は聞いたことがないが、J・K・ローリングの名はほとんどの人が聞いたことがあり、多くの人(例:私)がハリー・ポッターのシリーズを愛していることは知っている。バイアットは、ローリングが自分より有名で優れた芸術家であることを嫉妬している」と辛らつな反対意見も多かった。

はやり物に対して警戒心があるあまのじゃくの私。読む前にどんな話なのか知りたい。数多くあるハリー・ポッターのファンサイトのうちの1つ、The Harry Potter Lexicon「ハリー・ポッター用語集」にアクセスした。同サイトには、各巻各章ごとの粗筋、物語で起こる事件のカレンダー、著者ローリングの各巻へのコメント、様々な雑学ネタなどが載っている。

第1巻「Harry Potter and the Sorcerer’s Stone」(「ハリー・ポッターと賢者の石」)の第1章The Boy Who Lives 「ハリー・ポッターの生い立ち」の粗筋を見る。In which we meet the Dursleys and learn of the peculiar happenings surrounding the arrival of Harry Potter on their doorstep including a conversation between Professional Dumbledore and McGonagall. 「この章で読者はダーズリー一家に出会う。この一家の玄関に赤ん坊のハリー・ポッターが置き去りにされる出来事にまつわる奇妙な事象について学び、ダンブルドア、マクゴナガル教授の会話もある」とある。

同サイトには、ハリー・ポッター・シリーズの英国版と米国版の違いを比べたリストも。例えば、第1巻のリストには、映画を意味する単語が英語版ではcinemaだが米国版はmovies 、ハンバーガー店が英国版はhamburger bars、米国版はhamburger restaurants - などとあり、実際本を読んでいない私にも興味深い。

7万近いFanfic投稿

読み始めようと思い、37歳の友達ノリーン(もちろん彼女は全巻読破している)に借りることにする。電話をすると「ハリー・ポッターの『Fancif』はもう読んだ?」と聞く。何のことかと聞くと、Fanficとはファンフィクション(Fan Fiction)の略で、あるフィクションの設定や登場人物を借りて新たなフィクションを作る、いわばパロディー小説とのこと。

ノリーンが大好きというサイト、ファンフィクション・ネットへ行った。小説やテレビドラマ、漫画などを基にしたFanficの投稿サイトで、リストを見ると「X−ファイル」「スターウォーズ」シリーズへの投稿も多いが、ハリー・ポッターへの投稿はずば抜けて多かった。

7万近くあるハリー・ポッターのFanfic投稿のうち、一番初めに投稿されたFanficを見てみた。Ogestarさんという人が1999年に書いたミニ小説で、タイトルはHarry Potter and the Man of Unknown「ハリー・ポッターと身元不明の男性」。オリジナルを読んでいないため全然分からない。この作品に対し寄せられた約300のコメントを見る。その1つのEizokuさんのコメントはWow. You had me in suspense the whole time. That is amazing! Great job! 「ワーオ、ずっとハラハラしながら読みました。素晴らしい、力作!」と絶賛していた。

その後、やっとノリーンから全巻借りてきたが、まだ読み始めていない。早く読みたいが、忙しい。シリーズはあと2巻刊行予定とのこと。次の巻が出るまでに読み終わるだろうか。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)