熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2003年9月9日号
第57回:ワイファイ(Wi-Fi)
 
"Who do you want to share your connection with?"
「コネクションを誰と一緒にシェアしたいですか」


勤め先の近くにあるスターバックスに行くと、1人の中年男性が必ずいる。隅のテーブルに資料を並べて、ノートパソコンのキーボードをたたいている。1日中いるので、ここを仕事場に使っているとしか思えない。ちらりと見ると、ニュースをチェックしたりEメールを送受信したり、インターネットを駆使している様子だ。

スターバックスのサイトWireless Internet「ワイヤレスインターネット」のページへ行ってみた。ワイヤレス企業大手のT-Mobile社のアカウントを持っていれば、多くのスターバックス店舗内でワイヤレスブロードバンドが利用できることを紹介している。利用者のコメントがある、マーケティングコンサルタントのパトリシアさんは”I work from home and sometimes it is hard for me to concentrate in the house .... I get a lot done in Starbucks using my T-Mobile HotSpot account. It is also faster to download stuff with the service than at home via my dialup service.” 「私は在宅勤務ですが、時々家では集中できないことがあります。T-Mobile社のホットスポットアカウントを使ってスターバックスで仕事をすると実にはかどります。家ではモデムのダイヤルアップなので、ダウンロードにはスターバックスの方がずっと速いんです」と言っている。

新聞記事によると、アメリカで最近、ノートパソコンの売上げがデスクトップを抜いた。ワイヤレス技術の普及で、家でも仕事場でも、ノートパソコンからワイヤレスで簡単にブロードバンドにアクセスできるようになったからだろう。

市中心地全域でアクセス可能

ワイヤレス関連メーカー約200社がつくる団体WECAは、ワイヤレスを可能にした規格をワイファイ(Wi-Fi)と呼び、加盟団体製品を相互に使用できるよう認定制度を設けている。WECAのサイト、ワイファイ・オーグに行くと、Wi-Fi is Freedom 「ワイファイは自由です」とある。Wi-Fi, or Wireless Fidelity, is freedom: it allows you to connect to the Internet from your coach at home, a bed in a hotel room or a conference room at work without wires. 「ワイファイ、またはワイヤレスフィデリティーは、自由を意味します。ワイファイによって、自宅の長いすから、ホテルのベッドから、あるいは仕事場の会議室から、ワイヤなしでインターネットにつなげます」と続く。

ホットスポットと呼ばれるワイヤレスブロードバンドのアクセス可能な場所(例えばスターバックスや一部の空港、ホテルなど)を離れてしまえば、ブロードバンドにアクセスできない。しかし、一部では、広域エリアでいつでもアクセス可能な町づくりをしているところもある。コンピューターニュース関連サイト、ワイヤード・コムの最近の記事によると、カリフォルニア州北部のハーフムーンベイ市(人口1万2000人)はアメリカで初めて、市の中心地5ブロック全域をワイヤレスブロードバンドアクセス可能にしたばかり。The Half Moon Bay users can perch on a bench a block down the street from a coffee shop, open up their laptops and do their work. 「ハーフムーンベイ市のユーザーは、喫茶店から1ブロック離れた屋外のベンチに腰掛け、ノートパソコンを開いて仕事ができる」という風景が現実になっている。近い将来、これが全米どこでも当たり前の風景になるのだろう。

チラシで会員を集めよう

私はスターバックスで仕事はしないが、自宅でワイヤレスLANを使っている。一戸建ての住宅に友人3人と住んでいるのだが、各人のパソコンをワイヤレスで結び、加入しているブロードバンドをシェアして使ってきた。私のデスクトップパソコンにアクセスポイントと呼ばれるルーター(ワイファイ認定マークがしっかりついている)を接続、離れた部屋にある友人らのパソコンを子機としてつなげたのだ。去年、このシステムを構築した時は、技術面よりも、1アカウントを4人でシェアできる経済性に実に感動した。使っていないノートパソコンを掘り出してきて、庭やリビングルームでインターネットを利用しまくろう、と思っていた。

しかし、最近、同居人のうち2人が転職と結婚で引っ越してしまった。今、ワイヤレスLANをたった2台で使っていることになり無駄だ。それに当然だが、アカウント代も1人のシェアが2倍になった。

そうぼやいていると、友人がシアトルにある新しいブロードバンド提供会社スピークイージーを教えてくれた。サイトに行きプレスリリースへ。Speakeasy Introduces Wi-Fi NetShare, enabling Subscribers to Become Broadband “Resellers” 「スピークイージー社、ワイファイネットシェアを導入――加入者がブロードバンドの『転売人』になれる」というタイトルだ。

仕組みはこうだ。同社のブロードバンドに加入し、自宅でワイヤレスLANを構築した場合、アクセスポイントから90〜150m内はワイヤレスブロードバンドにアクセス可能だ。加入者は、このアクセスポイントを使ってコネクションをシェアしたい会員を集め同社に連絡。会員は、加入者が決めた額(通常は加入料の半額)を同社から請求される。加入者は集めた会員らが同社に払った額の半額を同社から受け取る。会員を多く集めれば、加入者には儲けになる。

しかし、同居人以外にどうやって会員を集めればいいのだろう。同サイトにはこうあった。It’s totally up to you! First decide: Who do you want to share your connection with? If the answer is all your neighbors, you might want to try posting a flyer or two around your neighborhood, or in your apartment building.「あなたがやりたいようにどうぞ!最初に決めましょう。コネクションを誰と一緒にシェアしたいですか。もしも近所の人たち全員ならば、チラシをつくって近所やアパートの建物に張るのはどうでしょう」

チラシとは随分原始的だ。面倒くさいので、同社に乗り換えるのはやめた。それよりも、今の私のLANをシェアしたい同居人を見つけるのが先決だ。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)