熱田千華子作品集
時事通信社 文化部より1993年8月配信
南アで豪華旅行
 
プレトリアの駅舎をゆっくりと出発した青い車体。「ブルートレイン」の清潔なコンパートメントの窓から見える濃い緑の木々…。アフリカならではの光と風景を楽しみつつ、豪華な設備でくつろぐ。欧米のカップルが楽しんできたこんな休暇を味わうために、南アフリカ共和国を訪れた。

「走る超高級ホテル」とも呼ばれるブルートレインは1948年に誕生した。現在、週数本が首都プレトリアと港町ケープタウンの間を25時間で結ぶ。

食堂車では南ア産のワインと豪華な食事が楽しめ、ゆったりしたラウンジカーではカクテルを片手に世界各地から来た乗客と談笑できる。また、自然の景色が素晴らしい。大農場風景が一転してカルーと呼ばれる砂漠になり、山脈を抜けると延々とブドウ園が広がる。

ラウンジカーにいたドイツ人の観光客、ラルフ・ビーバーさん(52)は大の鉄道ファンで、参加した団体ツアーと別行動を取ってブルートレインに乗ったという。「オーストラリアを走る『インディアン・パシフィック・トレイン』に似てる。リラックスした雰囲気で、日本の新幹線とは大違い」とにやり。

乗客にはすべてブルートレイン乗車証明書が渡される。乗務員責任者は「乗客定員が約100人と少ないですから、予約は半年ほど前に」と言っていた。

現代のお城で王様気分

豪華な列車のあとは豪華なホテルを楽しもう。南アの北部のボプタツワナ自治区にある「サンシティー/ロストシティー」は、カジノやゴルフなどのスポーツができる大リゾート施設だ。そこに昨年オープンしたホテル「ザ・パレス」は、古代アフリカ王族の伝説をイメージして作られており、とにかく巨大。

ヒョウやゾウをかたどった彫像やアフリカの風景を鮮やかに織り込んだタペストリーがあふれ、外国からも集めた各種のパームトリーが揺れる。アフリカらしさを豪快に取り入れた“現代のお城”では世界を駆けるビジネスマンが会議を開き、ドイツのテレビ局がドラマ撮影をしていた。

スイートルームを見る。寝室2室にバーやグランドピアノがあるリビングルーム、ジャクジーとサウナ付きのバスルーム。大地と遠くの山々を見渡し見事さにため息をつくと、ホテル従業員が「このスイートはセカンドクラス。最高の部屋には南ア1のお金持ちである鉱山主がお泊りです」と胸を張った。

夜が更けたあと、ホテルからのシャトルバスでカジノへ。スロットマシン、スピードルーレットの奥にあるブラックジャックの台に座る。ディーラーを囲む顔ぶれはイタリア人、マレーシア人、インド人…。ゲーム中に「もう1枚引きなさい」と隣に座るドイツ人のおじさんがささやいてくれたりと、結構なごやかだ。

カジノからの帰り道に、数年前ブルース・スプリングスティーンら欧米の歌手が共同で作ってヒットした歌「サンシティー」を思い出した。この巨大な娯楽施設をテーマにアパルトヘイト制度を強烈に批判していた。ギャンブルで疲れた客を乗せ、バスを運転する黒人青年に尋ねてみると、「そんな歌聴いたことない」とぼそりと言われた。


(時事通信社文化部より配信、十勝毎日新聞など各紙に掲載)