熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2004年7月13日号
第78回:政治ブログ
 
"You might be a communist if you have a differing opinion."
「違った意見を持てばあなたは共産主義者かも」


この連載で何度かブログについて触れた。ウェブログの略で、ウェブサイトの作り方を知らなくても個人が簡単に立ち上げ、情報を更新できるサイトの総称だ。日本でも人気のこのメディアだが、最近の新聞記事によると、アメリカではインターネットの成人ユーザーのうち2割近くがブログ読者であり、さらに5%がこれまでにブログを自分で実際作ったことがあるとのこと。急速な浸透ぶりだ。

さて、今年は大統領選の年。11月の一般投票に向けて、夏に民主党、共和党両党の全国大会が開催される。これまで新聞で読んだのだが、私が住むボストンで開催される民主党の党大会は、個人が作成しているブログの記者(というかライター)に、大手新聞社、テレビ局などと同様、大会を自由に取材できるプレスカードを交付することにしたらしい。共和党大会側はまだそうするか決めていないとのことだ。

まだプレスカード配布は始まっていないようだが、パンダゴン・ネットという政治ブログは、今年1月のカリフォルニア州民主党大会を公式プレスとして取材したそうで、全国大会も取材が許可される可能性は高い。このブログに行ってみる。ジェシー・テーラーさん、エズラ・クラインさんという2人の男性によるブログだが、それぞれ21歳、19歳と非常に若い。テーラーさんは大学を卒業したばかり、クラインさんは現役学生。2002年夏に始まったブログで、既に大手新聞と同じ権利を持つ取材証を得られるのだから、驚いてしまう。

この日のブログには、Even The Liberal... Yadda Yadda 「リベラル派ですら…あれこれ」と題され、テーラーさんがこの日のニューヨーク・タイムズ紙に載ったクリントン前大統領の自伝に関する書評について感想を書いている。

「僕が見たのは違うストーリー」

このサイトのカリフォルニア州民主党大会の書き込みを見てみた。クラインさんが1月18日付で書いたThoughts on the California Democratic Convention and Political Journalism 「カリフォルニア州民主党大会と政治ジャーナリズムについての考察」というエッセイがあり、こう始まる。

The interesting part about being Press at an even like the Democratic Convention comes after you've gone home and the doors have shut, it comes when the stories recapping the events begin flicking across your desktop. Stories like "Democrats Miss Key Stars at Convention," "A Day of Party Infighting," and the ubiquitous "After Schwarzenegger Victory, Democrats Search for Message." We all watched the same Convention, I sat next to these journalists, but what I saw told a very different story. The CA Convention had nothing to do with "Democrats" or "The Party," it had to do with 5 men running for governor and a few others preparing themselves to do so in a few years. The Convention was about individuals, not party building, ambition, not unity. 「民主党大会のようなイベントをプレスとして取材する上で面白い点は、自宅に帰ってドアを閉め、コンピュータ画面上で大会に関する報道の見出しを読むときに訪れると言っていいだろう。見出しは例えば『民主党大会、スターに欠ける』『党内紛の一日』そして多いのが『シュワルツェネッガー(当時共和党知事候補)の勝利の後、メッセージを探る民主党』。僕たち皆同じ大会を取材し、僕は他の記者たちの隣に座っていた。でも、僕が見たのは全く違うストーリーだ。カリフォルニアの大会は『民主党』とか『党』とかいったことと全く関係がなく、知事選に出馬している5人と、数年後の出馬を控えて準備する数人に関することだった。大会は個人に関することであり、党の再建や希望、一体化とは無縁のことだった」

このサイトからリンクが張られている、他の政治ブログも見てみた。デーリーコス・ドットコムトップページに、political analysis and other daily rants on the state of the nation「政治分析と国情に関する日々の暴言」とある。この日のブログには、サイトオーナーであるkosの書き込みで、Al Qaida wants Bush to win「アルカイダはブッシュ勝利を願う」のタイトルでCan there be any doubt that Bush the best thing to ever happen to Osama Bin Laden? 「オサマ・ビンラディンに起こった最良のことがブッシュだったことは間違いない」と始まるエッセイが掲載されていた。

ジャーナリズムとはの疑問

このサイトオーナーkosことマルコス・ズニガさんの経歴を見ると、33歳のソフトウェアエンジニア。高校卒業後3年間、米陸軍ドイツ基地に駐留。その後、大学で哲学と法律を修め、現在カリフォルニア州に住む。同サイトを2年前に立ち上げ、現在毎月250万のアクセスがあるというのだから、大変な人気サイトだ。

また別の政治ブログ、サウスポーは、テキサスのラジオ局に勤める4人の男女が運営している。この日の書き込みは、そのうちの1人bubbaによるもので、タイトルはYou might be a communist if you have a different opinion「違った意見を持てばあなたは共産主義かも」。

A woman where my wife works put a "Anybody But Bush" sticker inside her cube. Her boss saw it and asked her if she really felt that way. Her boss's boos came by later, looked at it, and called her a "Communist." 「僕の妻の同僚である女性が『ブッシュ以外なら誰でも』と書いたステッカーをデスクの周りに張っていた。上司が来て本当にそう考えているのかと聞き、そのまた上司が来て彼女を『共産主義者』呼ばわりした」と始まるエッセイが載っていた。

このように、プロのジャーナリストにない、新鮮でナイーブな視点が魅力の政治ブログ。「これがジャーナリズムか?」という疑問は常に付きまとうし、読者の判断力も問われるが、いろいろな声がインターネットにあふれるのは楽しい。これらの政治ブログが民主党全国大会をどのように"報道"するか、楽しみだ。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)