熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2003年12月4日号
第65回:ファイルジョッキー
from Ako  to Ako 
"Welcome to the digital music revolution."
「デジタル音楽革命へようこそ」


私は、欲しいCDアルバムがあれば、いわゆる街のレコード屋さんに行って買う。会社の若い同僚たちにそう言うと、異星人を見るような目で見られた。「アルバムに嫌いな曲が入ってたらどうするの?自分で聴きたい曲を選びたくない?」と同僚の1人クリス。貸してくれたCDは、彼が選んだ様々なアーチストの曲を集めて焼き付けたものだった。

クリスがこれらの曲を集めるサイトは、バイミュージック・ドットコム。あらゆるアーチストのアルバムすべて、またはアルバムの中から好きな曲だけをダウンロードできる。多くの場合1曲99セントで、アルバムすべてでも10ドル未満という。

最近新聞を読んでいたら、自分で好きな曲を選んでオリジナルのアルバムをつくるこういう若いユーザーを、ディスクジョッキーならぬfile jockey「ファイルジョッキー」と呼ぶと書いてあった。私もファイルジョッキーしてみることにした。同サイトで、氏名やEメールアドレス、クレジットカード情報など基本事項を入れてアカウントをつくった。

私は、シェリル・クロウのIf It Makes You Happy 「イフ・イット・メークス・ユー・ハッピー」という少し前のヒット曲をカラオケで練習するためにダウンロードしたい(アメリカでもカラオケは人気です)。この曲を検索、99セントだ。クレジットカードからの引き落としを確認してダウンロード。Windows Media Playerで簡単に再生できた。音がきれいでうれしい。

1曲を1ドル以下で販売

しかし、ダウンロードの過程で著作権上のいろいろな文章を読む必要があった。例えば、この曲に関しては With this download you have permission to: download to 1 computer, transfer to an unlimited number of portable devices, and make an unlimited number of cd burns.「この曲のダウンロードに関してあなたは以下の許可を得られます。ダウンロードは1台のコンピューターにのみ、ポータブルな機器へのトランスファーは無制限、CDへの焼付けは無制限」。その後、ローリングストーンズの曲も1曲ダウンロードしたのだが、この場合、トランスファー、CDへの焼付けは各3回のみという制限があった。はっきり言って、いったんダウンロードしてしまえば分からないだろうと思ったが、著作権問題の難しさがにじみ出ている。

以前にこの連載でも触れたが、1999年にナップスター・ドットコムというファイルシェアリングのソフトを掲載したサイトが登場、爆発的な人気を博した。お気に入りの曲を無料でシェアでき、ファイルジョッキーたちを生む環境を作ったのだが、レコード業界との訴訟に破れ衰退。その後、新しいファイルシェアリングが次々に登場したが、すべて著作権訴訟に持ち込まれている。

そこで登場したのが、今年春に立ち上がったアップル社のアイチューンズ・ドットコムだ。ナップスターでできたようにアルバムの中から好きな曲だけを自分のコンピューターに取り込むことができるが、レコード業界と著作権問題を解決し、1曲約99セントで合法的に販売することができるようにしたサイトだ。

最近のタイム誌はこのiTunes Music Store 「アイチューンズ・ミュージックストア」をCamera phone「カメラ搭載携帯電話」Toyota's Hybrid Car 「トヨタ製ハイブリッドカー」などを抑えて、Invention of the Year「今年最高の発明」に選出していた。記事にはこうある。 It's a disarmingly simple concept: sell songs in digital format for less than a buck and let buyers play them whenever and wherever they like.「(アイチューンズは)拍子抜けするくらいシンプルなコンセプトだ、デジタルフォーマットの曲を1ドル以下で販売、買い手はいつでもどこでも好きなときに聴ける」とある。

しかし、同僚のクリスも私もウィンドウズ・ユーザーである。アイチューンズはマック専用、と思っていたので、ウィンドウズ・ユーザーを対象にしたバイミュージック・ドットコムに行ったが、先月同サイトはウィンドウズ・ユーザーのダウンロードも可能にしたそうだ。サイトに行くと、Welcome to the digital music revolution.「デジタル音楽革命へようこそ」と大書した後に、The world's best digital jukebox is now for Windows, too. 「世界最高のデジタルジュークボックスをウィンドウズでも使えるようになりました」とある。

ナップスターも合法に

バイミュージックは約32万曲から検索可能だが、アイチューンズはFeaturing over 400,000 tracks including all 5 major labels and 200 signed Independents and weekly exclusive tracks. 「5メジャーレーベル、200のインディーズ系レーベル、さらに毎週変わる独占トラックも含め40万曲以上をフィーチャー!」とあるので、魅力だ。しかし、ウィンドウズ2000またはXPだけなので、古いOSの私のパソコンではバイミュージックを使うしかない。

ナップスターにも行ってみた。サイトはすっかり衣替えをし再開しており、Napster2.0 It's Back. (and legal)「ナップスターバージョン2、返り咲き(合法的に)」とある。ソフトのしくみは上記の2サイトとは違うようだがChoose from over 500,000 tracks. Buy tracks for only 99 cents; and albums for just $9.95 to burn to CD and transfer to a variety of portable devices. 「50万曲以上の中から選べます。99セントで、アルバムはたった9ドル95セント。CDに焼き付け、様々なポータブル機器にトランスファーできます」とあるので、コンセプトは全く同じのようだ。

バイミュージックのサイトであれこれと曲を選んでダウンロードしたファイルに保存しているうち、ふと思い出した。高校生のころ、ラジオでかかる曲やレコードの中の1曲をカセットテープに録音しては、オリジナルのカセットを作りよく友人と交換したっけ。ファイルジョッキーと名前がつき、メディアの形態は変わってもやっていることは全く同じである。何だ、こんなことは経験済みだ、とすっかり気が抜けてしまった。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)