熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2003年9月23日号
第58回:ディーン人気
 
"The truth is the future of our nation rests in your hands, and not in mine."
「真実はこうです。私たちの国の将来は私ではなくあなたの手中にある」


来年は米大統領選の年だ。ブッシュ大統領再選を阻止できる候補者を民主党は擁立したいところ。現在8人が名乗りを上げている。その中で最近、大幅に支持率をあげているのが、前バーモント州知事のハワード・ディーン氏だ。

私の周辺でもディーン人気は盛り上がる一方だ。友人のロビンは同性愛者のフェミニスト。ディーン氏が知事時代、アメリカで初めて同性愛者の実質的な結婚を認める法律を認めたことから、ロビンはディーン氏の熱烈な支持者だ。ディーン氏は夫人と共に医者で、医療問題に専門知識があるところや、イラク戦争に反対する姿勢もロビンは買っている。彼女によると、ディーン氏の人気の秘密は、インターネットを駆使した選挙活動によるらしい。

ディーン氏の公式サイト、ディーンフォーアメリカドットコムヘ行った(編集注:このサイトは今は存在しない)。ディーン氏の公約や略歴などが並ぶ中、Get Involved 「参加しましょう」のページは実に盛りだくさんな内容が並ぶ。Join the Dean Campaign 「ディーンキャンペーンに参加しよう」Contribute「寄付」、Dean Wireless「ディーンワイヤレス」、House Parties 「ホームパーティー」などだ。

冒頭のページにディーン氏からのメッセージがある。The great lie spoken by politicians on platforms like this is the cry of “elect me and I will solve all your problems.” The truth is the future of our nation rests in your hands, and not in mine.「政治家の公約には大きなうそがあります。『私を選出してくれればあなたのすべての問題を解決します』というものです。真実はこうです。私たちの国の将来は私でなくあなたの手中にある」と始まり、有権者に直接の政治参加を呼び掛ける。

草の根選挙活動にミートアップ

この参加の1つの方法でディーン人気を大いに盛り上げたと言われるのがMeetup for Dean 「ミートアップフォーディーン」。クリックすると別のサイト、ミートアップドットコムへ行く。このサイト自体は、あるエリアに住む共通の関心を持つ人たちが集会を持つのを助けるためのサイトで、ディーン氏と直接関係はない。現在、同サイトには約1900のトピックが登録されていて、関心のあるトピックの集会があれば(大抵喫茶店か飲み屋で行われる)、入会して(無料)、Eメールで参加することを伝え、当日姿を現せばいいだけだ。44カ国591都市で集会予定が組まれているのだから大変な浸透ぶりだ。

たくさんある集会の中で一番人気があるのが、Dean in 2004 「04年にはディーンを」という名称のディーン支持集会だ。これまでに参加を表明した会員は9万6100人。他の候補者を支持する集会もあるが、数の上では圧倒的な支持率だ。私も会員になり、Dean in 2004のページへ。私が住んでいるボストンのリンクをクリックすると、週に1〜2度のペースで行われるディーン支持集会の予定がずらりと並ぶ。参加するかどうかのボタンが隣にあるので、それをクリックすれば、あとは当日指定された会場に行けばいい。会員が自ら集会を企画立案することもできる。

このサイトのトップページには新聞記事の一部が引用されていた。”After Richard M. Nixon faced John F. Kennedy in televised dabates, people said television had changed campaigns forever. Forty-three years later, some people have begun saying the same thing about Meetup.com.” -- The New York Times「『テレビ中継されたディベートでニクソンがケネディに敗れて以来、テレビは選挙運動を永遠に変えたと言われる。43年後、ミートアップドットコムについて同様のことを語る人が多い』――ニューヨーク・タイムズ紙より」。出しかに草の根選挙活動には効果的な方法だろう。

候補者に15分後返信書き込み

ディーン氏の公式サイトの上方にOfficial Blog「公式ブログ」があった。最近この連載でも書いたが、ブログとはウェブ上で展開する日記のようなもので、管理者は専用ソフトを使って時々刻々、簡単に情報更新ができる。クリックすると、その名もずばりブログフォーアメリカドットコムへ行った。

サイトをチェックした8月31日には、同日付でサイト管理者名からの告知がまずあった。Dean on CSPAN: Remember to watch the Sleepless Summer tour on CSPAN at 6:30 ET tonight. 「CSPAN(アメリカの政治専門ケーブルチャンネル)にディーン出演。不眠サマーツアーの模様が米東部時間午後6時半にCSPANで放映される。お見逃しなく」との情報提供だ。この「不眠サマーツアー」というのは、ディーン氏が今夏、全米各地で繰り広げた選挙活動の呼び名のようだ。

この告知のすぐ下に同日付で、ディーン氏本人の書き込みがあった。シアトルでの集会の感想だ。そのうちの一部にこうある。I looked out over at least 10,000 people, a thick crowd all the day back to the buildings, and for the first time in a long time, I was nervous, not because of the speech, but because I realized that I had a huge responsibility, not just because we might win, but because you are all counting on me. 「私は建物の後ろまで埋め尽くした1万人の人たちを見て、久しぶりのことですがどきどきしてきました。スピーチのせいではなく、私がいかに大きな責任を担っているか、それも、我々が選挙で勝つかもしれないということでなく、皆さんが私を信頼していることからの感情でした」と、率直にかつ気軽に書き連ねている。

この書き込みには同日だけで既に数百の返信書き込みがあった。ディーン氏が書き込んだ15分後。スコット・ロックウッドという人がこう書いている。Howard. Please stop saying “if” you win. Better to say “when.” Sure makes me feel better when you do! 「ハワード、『勝つかもしれない』と言うのはやめてください。『勝った時』と言った方がいい。そうしてくれた方が僕は気分が良いな!」ブログならでは、いやインターネット選挙活動ならではのスピード感である。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)