熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2003年6月24日号
第52回:ブログ
from Ako  to Ako 
"Who Would Buy That?"
「誰がこんなもの買うの?」


エッセイスト志願の友人ランディが先日、「エッセーを雑誌や新聞に売り込むより、ブログで発表しようかな」とつぶやいた。ブログとは何かと聞くと、あきれられてしまった。全く聞いたこともなかった。

「Weblog」(ウェブログ)を短縮した「Blog」(ブログ)。PCマガジン誌に掲載されたThe Blog Phenomenon 「ブログ現象」と題された記事に載った定義によると、A blog is a web page made up of usually short, frequently updated posts that are arranged chronologically; like a what’s new page or a journal. 「ブログは、普通短く頻繁に更新される情報が、新着情報やジャーナルのように時系列に配列されるウェブページでできている」とのことだ。さらに続く。The content and purposes of blogs varies greatly; from links and commentary about other web sites, to news about a company/person/idea, to diaries, photos, poetry, mini-essays, project updates, even fiction. 「ブログの内容と目的は多岐にわたる。他のウェブサイトへのリンクや解説から、会社、個人、アイデアに関するニュース、日記、写真、詩、ミニエッセー、プロジェクトのアップデート、フィクションまで含む」とある。日本でもブログの名で非常に盛んだとその後、聞いた。

しかし、それなら、個人が家族やペット、身の回りのことを書いて更新する昔からよくある、つまらないサイト(失礼!)のことではないか。ランディは「違う」と言い張る。以前はウェブサイトを作るのにHTMLを習わなければならないなど技術的に様々なバリアがあり、サイトを作るのは一部の個人に限られていたが、今はソフトウェアの進化で技術的に何も学ぶことなく簡単にサイトで文章を発表できる。そのため、高度な文章力の深い内容が多く、それがブログだと言う。

ランディが教えてくれたブログの代表的なソフトウェアサイト、ブロガー・ドットコムに行った。サイトの説明を読む。Blogger is a web-based tool that helps you publish to the web instantly - whenever the urge strikes. Blogger is the leading tool in the rapidly growing area of web publishing known as weblogs, or “blogs.” 「ブロガーとは、その気になったらいつでも即座にウェブ上で出版することを助けるウェブベースのツールです。ブロガーは、急速に成長する、ウェブログまたはブログの名で知られるウェブ出版分野を率先するツールです」とある。

珍品情報せっせと更新

代表的なブログの例が同サイトに列挙されていた。Who Would Buy That?「誰がこんなもの買うの?」という質問そのままのサイト、フーウドバイザット・コム。ebayやYahooなどのオークションサイトで実際に競売に出された賞品で、思わず「誰がこんなもの買うの?」と聴きたくなるような珍品情報を収集、更新しているサイトである。

本稿執筆時点の最新情報は5月30日午後2時42分に掲載されている。Budget-cutting measures at the Ministry of Defense forced James Bond to give up his hith-tech gadgetry for more modest weapons. 「国防省では予算の削減が進み、ジュームズ・ボンドもハイテクの武器をあきらめて控えめな武器に乗り換えたようだ」というコメントをクリックすると、ebayのページに飛んだ。実際にオークションが進行中で、商品はJAMES BOND RUBBER BANDS「ジェームズ・ボンド輪ゴム」。007シリーズのジェームズ・ボンドのイラストが描かれた箱に入った輪ゴムだ。フーウドバイザット・コムの作者が、ebayで見つけ、コメントと共に紹介しているわけである。

同日午後2時38分にまた別のコメントが。Here's your chance to one-up that geek at work who has a scale model of the Millenium Falcon suspended above his cube.「同僚のオタクがオフィスの机の上にミレニアムファルコンのモデルを吊るしているとしたら、今こそこれを出し抜くチャンス」とあり、文章をクリックすると、再びebayのページに飛ぶ。実際にオークションで競売されているのはGenuine Soviet Sputnik satellite「本物のソビエトスプートニク衛星」。米国ドル2万5000ドルのオークションスタート価格が付いていたが、今のところ買い手がないようだった。

このようにして、同サイトの作者は珍品情報を見つけてはせっせとサイトを更新しているのだが、これを支えているのが、ブロガーのソフトウェアというわけ。

親戚から来るメッセージ

さらに、もう1つの代表ブログのサイトへ。Written Words「書かれた言葉」と名付けられたこのサイトでは、毎日、作者が詩や短文をせっせと書いて発表している。例えば6月1日にはこんな詩が発表されている。Every day I look to You / Be the Strength of my life / Breathe on me and make me new / Be the Strength of my life / Be the Strength of my life / Be the Strength of my life, today.「毎日君を見ている。僕の人生の力となってほしい。僕に息を吹きかけ生き返らせておくれ。僕の人生の力になって。僕の人生の力になって。僕の人生の力になって。僕の人生の力になって、今日」と、失礼ながら相当陳腐な詩である。(編集注:このサイトは既に閉鎖されたらしい)

このサイトには作者が何者なのか、全く紹介がない。しかし、上記の詩にメッセージが寄せられているので見てみた。Amy Dという人からの書き込みで、cousin jay! you are so cool! Say hello to the family, i love you guys so much!!!:)「いとこのジェイ! すごくクールだわ。家族によろしく言って。皆愛してるわよ!」と、親戚からのメッセージだ。読んでいて、なぜこんなものを読まなくてはいけないのだろう、という気になってきた。親戚同士で手紙かEメールのやりとりをすればいいのに。このサイトもブロガーのソフトで作られている。

ランディの言うような深い高度な内容のブログにまだ出会えていないが、ソフトの改善であらゆる人が世界に簡単に文章を発信できるのはすごいことだ。まだブロガーのソフトを試していないが(無料だそう)、興味がそそられる。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)