熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2003年7月8日号
第53回:詐欺
 
"This seller is a bold face liar. Slow, dishonest. Non-responsive. "
「この売り手はとんでもないうそつき。スローで不正直な上、返答しない」


ハーフドットコムというサイトがある。インターネットオークションの最大サイト、eベイドットコムの姉妹サイトで、eベイでは商品がすべて競売に掛かるが、ハーフドットコムは売り手があらかじめ商品の金額を決めている。競売で競り落とす楽しみはないが、売り手は市場価格より相当値引きした額で売りに出すので、本やCD、DVDなどで買いたい物が決まっている場合、私は大抵ハーフドットコムを使ってきた。

今年3月、同サイトで本を買い、クレジットカードで代金引き落としが終わったが、待てど暮らせど本が届かない。ハーフドットコムの私のアカウントで、買った商品がどうなっているか調べた。買った本の名前の下に売り手whiteobsidian.com「ホワイトオブシディアンドットコム」の名前があり、Eメール先がある。そこでこのメールアドレスあてに苦情の手紙を何度も出した。しかし、ナシのつぶてである。

そこで、ハーフドットコムにあったBuyer Protection Claim 「買い手プロテクションクレーム」のページから同サイトあてに苦情のEメールを書いた。するとしばらくして同サイトのBuyer Protectionチームの人からメールが来た。I am very sorry to hear that you have not received your item. I have issued a refund in the amount of $15.79 to your credit card today. 「商品が届かなかったことを非常に申し訳なく思っています。本日付で返済額の15.79ドルをクレジットカードの口座に振り込みました」。これは、売り手が引き落とした額に相当する。

クレームは前年の3倍

先日新聞記事を読んでいると、米連邦捜査局(FBI)に寄せられたインターネット詐欺のクレーム件数は昨年4万8000件に上り、前年の3倍増になったらしい。そのうちの半数がオークションサイトでのクレームだそうだ。

インターネット詐欺犯罪を扱う連邦政府の組織Internet Fraud Complaint Center「インターネット詐欺苦情センター」のサイトへ行ってみた。インターネット詐欺の被害者が苦情をウェブ上で報告できる。報告を受けて、必要なら警察当局に連絡が取られ、捜査が開始されるということだ。

同サイトによると、主要なインターネット詐欺は以下の5種類。Internet Auction Fraud「インターネットオークション詐欺」、Non-Delivery of Merchandise「商品が届かない詐欺」、Credit Card Fraud「クレジットカード詐欺」、Investment Fraud「投資詐欺」、Nigerian Letter Scam「ナイジェリアレター詐欺」。この最後のは、ナイジェリアなどアフリカ諸国の政府代表を偽って援助資金を求めるEメールが手当たり次第に送られてくる。私もよく受け取る。今は内容も見ないで削除するが、実に文面が凝っていて、当初は真剣に援助を考えたほどだ。

同サイトには、それぞれの詐欺に遭わないようなアドバイスが幾つも挙げられている。Learn as much as possible about the seller, especially if the only information you have is an e-mail address. 「買い手の情報をできるだけ集める。特に買い手のEメールアドレスしか知らない場合は」とか、Try to obtain a physical address rather merely a post office box and a phone number, call the seller to see if the number is correct and working.「売り手の私書箱番号と電話番号だけでなく、実際の住所を確保するよう努める。電話が実際につながるか試すこと」、Don’t judge a person / company by their web site. 「人物や会社をそのウェブサイトだけで判断しないように」などだ。

フィードバックを必ずチェック

オークションサイト最大手eベイ自体はどう考えているのだろう。同サイトのSafe Trading 「安全な取引」のページに行ってみる。Knowing Your Seller 「売り手を知ること」、Knowing Your Buyer 「買い手を知ること」、Knowing your Payment Options「支払方法のオプションを知ること」などをアドバイスしているほか、What to do if something goes wrong「取引がうまくいかなかった場合」にはクレジットカード会社、第三者調停機関、eベイ自体の詐欺プロテクションプログラムへ連絡することなどが挙げられていた。

ハーフドットコムにしてもeベイにしても、売り手と買い手のフィードバックをチェックすることが一番重要らしい。両サイトで売買が成立するたび、売り手と買い手がお互いを評価し合い、点数とコメントを残す仕組みだ。この記録は公開されているため、売買の時、相手を信用できるかどうかの基準として参考にされる。

私は両サイトでこれまで買い手になったことしかない。支払いは迅速なので、私のフィードバックは実に好成績である。Great Ebayer. I highly recommend.. Deal with confidence.「すばらしいEベイヤー。推薦します。自信をもって取引できます」とかSUPER FAST PAYMENT, Excellent Buyer.「ものすごく支払いが早い。最高の買い手」など賛辞が並ぶ。

今回私がハーフドットコムで売買を成立させた相手のwhiteobsidian.com。私はおろかにも、買う前に売り手のフィードバックをチェックしなかった。今回初めて確認して驚く。This seller is a bold face liar. Slow, dishonest. Non-responsive.「この売り手はとんでもないうそつき。スローで不正直な上、返答しない」とか、AWFUL - never shipped book, unresponsive, still waiting for refund.「最悪。本は送られてこないし、返答はない。今も返金待ち」とかVery unreliable. Accepted payment and never intended to send book. Stay away. 「全く信用できない。支払いを受け取った後で全く本を送ろうとしない。近づくな」といったコメントがあふれているのだ。このフィードバックを見て避けるのが賢いインターネット消費者の在り方なのだろう、と反省する。

見も知らぬ人からインターネットを通じて商品を買うという行動が当たり前になったのはつい最近のことだ。十分、警戒するに越したことはない。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)