熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2002年7月16日号
第29回: 精神性
 
"Spiritual, but not religious."
「精神性は高いが宗教的ではない」


今年初め、神父らによる子供たちへの性的虐待が明るみに出て、アメリカのカトリック教会は大揺れである。ボストンはカトリックであるアイリッシュ系住民が多い。同僚のテレサもカトリック信者。話がスキャンダルに及ぶと「ショックで夜も眠れない」と涙ぐむ。

テレサのような経験なクリスチャンも多い一方、既成の宗教には関心がないが精神性を高めることに凝る人も多い。友人のジョリーンは30歳。父親がユダヤ人で母親はプロテスタント。すっかりヨガとヒンズー教の瞑想にはまり、この夏はインドで修行をする。

このジョリーンが、以前この連載でも触れたインターネットの大手出会い系サイトのマッチ・コムに入会するという。私の家に来て同サイト上で彼女の個人情報を埋めていたが、悩みこんでしまったのが宗教の欄。以下から1つ選ばなければならない。

Agnostic(不可知論者)、Atheist (無神論者)、Buddhist/Taoist (仏教徒・道教信者)、Christian/Catholic (キリスト教カトリック)、Christian/LDS (モルモン教)、Christian - Other (キリスト教その他)、Christian/Protestant(キリスト教プロテスタント)、Hindu (ヒンズー教徒)、Jewish (ユダヤ教徒)、Muslim/Islam (イスラム教徒)、Spiritual, but not religious(精神性は高いが宗教的ではない)。「最後のでいいんじゃないの」と言うと、「なんだかすごくカルイ人間みたい」とぼやいていた。

既成宗教に飽き足らず精神性を追い求める傾向はアメリカに限ったことではないが、そんな人たちにうってつけのサイトがビリーフネット・コムだ。21の既成宗教のほか、精神性一般、家族問題、健康、科学、道徳といったテーマに関して、膨大な量の情報とディスカッションがある。サイトの紹介にはこうあった。

We are a multi-faith e-community designed to help you meet your own religious and spiritual needs. We are not affiliated with a particular religion or spiritual movement. Fundamental to our mission is a deep respect for a wide variety of faiths and traditions. 「本サイトはあなた自身の宗教を支えるe-コミュニティーです。いかなる既成宗教や精神運動にもかかわっていません。本サイトのミッションの基本は、様々な進行と伝統を深く敬うことにあります」

メンバー(無料)になると、ディスカッションに参加したりニュースレターを受け取ることができる。その際、20の質問に答えてSpiritual Type 「精神性タイプ」を決める必要がある。その質問だが、簡単に答えられないものが多い。

例えば、I believe that the universe we observe :「我々がとらえる宇宙なるものは」に次の4つから選択する。(1) Is natural in origin, but has higher spiritual aspects. (2) Was created supernaturally. (3) Is completely natural and has no higher aspect. (4) Was created under divine guidance, but using natural physics. 「(1) 源は自然だが、高い精神性を兼ね備える (2) 超自然的に創造された (3) 完全に自然に作られたものでそれを超えるものはない (4) 神的な導きで創造されたが、自然の原理を使っている」

こんな質問をあと19問こなし、算出された私のスコアは100点満点の57点で、Spiritual Straddler; One foot in traditional religion, one foot in free-from spirituality「精神性どっちつかず;片足は既成宗教にあり、もう片足は自由な精神性にある」になった。ちなみに、90点から100点だとCandidate for Clergy「聖職者候補」となる。

このタイプに分類された人のための掲示板がある。beachgirl 477という人が書いている。I am a beach bum, grew up right near the ocean and have always felt the greatest spiritual connection there. It’s always held more meaning than any church I’ve been in. 「ビーチが大好き。海のすぐ近くで育ったの。海は最大の精神的なつながりを感じさせてくれる。これまで行ったどの教会より海は深い意味を持っているわ」と奔放である。

盛り沢山な内容だが、その中にprayer circle「祈りのサークル」というのがある。メンバーが作った祈りの言葉に、書き込みを加えていく。膨大な量の祈りがある。例えば、Amsmomという人の祈り。

My daughter is 6 yrs old and we are seeing a surgeon tomorrow to see about setting up surgery. She is very scared along with the rest of us. I would like for you to pray for our family to remain strong while we find out and get through this surgery. 「私の6歳の娘は明日、医者に会って手術の段取りをします。娘も家族の他の者も怖がっています。ぜひ我々家族が手術を終えるまで、強くいられるよう祈ってください」と、個人的なもの。

すぐに、Karenという人から書き込みがあった。How is your little angel doing now? Praise Jesus for the blessings of children and the miracles sent to us through them each day. Thank you, Lord, for helping this family. In Christ’s name we pray, Amen From Karen「あなたの小さな天使は今どうしているの?イエスが子供たちに与える恵みとその奇跡を毎日たたえましょう。神よ、この家族をお助け下さい。イエスの名において、祈ります。アーメン」と、キリスト教色が強い返事だ。

その書き込みのすぐ横に日替わりで提供されるダライラマの言葉へのリンクが。クリックするとこうあった。

Inspiration from His Holiness the Dalai Lama, As long as there is no freedom in many parts of the world. There can be no real peace. 「聖なるダライラマからの言葉:世界の多くの場所に自由がない限り、真の平和はあり得ない」

あちこち見て回るうち、宗教や精神性運動の大デパートといった感じを受け、圧倒されてしまった。それも私が精神性どっちつかずの故だろうか。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)