熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2002年7月30日号
第30回: バケーション
 
"Will an old, flat towel work as well? I don’t own anything that I would describe as 'fluffy'."
「古い薄っぺらのタオルでも構わない?『ふわふわ』と呼べるタオル持ってないんだけど」


夏である。バケーションの季節だ。会社の同僚も予定を練り、そわそわしている。先陣を切った私のボス(30歳の白人アメリカ人男性)は、ジャマイカでの休暇から帰ってきたばかり。「すごく貧乏な国だ。レゲエは聞けなかったし食べ物がまずい。アメリカ人と見るとすぐ値段をつり上げる」と文句たらたらである。それなら行くな、と言いたいが、カリブ海の島々や中南米の国への旅は安いので人気がある。

友人のシビルは音楽好きだ。夏は、全米各地で開催される音楽祭にこまめに足を運ぶ。「どうやって調べるの?」と聞くと、その名もずばりフェスティバルズ・コムを教えてくれた。世界中のお祭りやイベントの最新情報を網羅したサイトだ。

シビルは、今凝っているフォーク音楽のイベントを「Folk」「7月」を選択しサーチ。全米で開催されるイベント30件があがった。シビルが選んだのは、ワシントン州ポートタウンセンドで7月上旬に3日間開かれるFestival of American Fiddle Tunes 「アメリカバイオリン音楽祭」。詳細にこうある。Traditional old American fiddle tunes get new regional twists from some of the world’s finest fiddlers. The musicians come from all across the continent, attracting 3,000 spectators to a 430-acre park on Washington’s Olympic Peninsula. The park has camping and the pavilion is booze-dry so bring the kids along. 「世界で最も優れたバイオリン奏者が、伝統的な古いアメリカのバイオリン音楽に地方のひねりを加えます。参加ミュージシャンは全米各地から集まり、ワシントン州オリンピックペニンスラにある430エーカーの公園に3000人が集合します。公園ではキャンプができアルコールは禁制なので、子供たちも楽しめます」。この情報を元に西海岸まで飛んで行くのだから、シビルの音楽好きも相当だ。

地元のニュースサイト、ボストン・コムをのぞくとトラベルチャットの真っ最中だった。同サイトの旅行ページの編集者がニューイングランド地方でバケーションを楽しみたいビジター15、6人ほどと質疑応答していた。

例えば、Kate: I saw something on the news the other night about a lighthouse restaurant, perhaps in Massachusetts (can’t remember). Wouldn’t it be too bright to eat dinner in a lighthouse?「ケイト:ニュースで見たんだけど、マサチューセッツ(よく覚えてないわ)のどこかに、灯台の中のレストランがあるらしいの。灯台の中で食事すると明る過ぎないかしら」とのん気な質問に、回答者はDear Kate: I assume you’re talking about the oh-so-obviously named Lighthouse Restaurant on the Cape. I think they issue sunglasses to all the diners. Just kidding. Seriously, the light comes from the top bit, and you don’t eat in with the lens, I promise. 「ケイトへ:すごく露骨な名前の、ケープコッドにあるライトハウスレストランのことでしょう。食事に来たお客様すべてにサングラスを配るようです。冗談です。まじめな話、光は灯台の先から少しは入るでしょうが、レンズの中で食事するわけじゃないから大丈夫でしょう」

こんな質問も。Chris: Any other packing advice? I know my packing is always a mess. 「クリス:パッキングでいいアドバイスを。いつも荷物がぐちゃぐちゃなんだけど」。回答は、Dear Chris: Rolling is a good way to prevent wrinkles. I find that if you take your most-wrinkle prone clothes and roll them around a fluffy towel, you should avoid the worse creases. 「クリスへ:服のしわを防ぐには巻くこと。しわになりやすい服はふわふわしたタオルの中に巻き込むと最悪のしわを防げます」とのこと。するとすぐ、別の質問が。 Munter: Will an old, flat towel work as well? I don’t own anything that I would describe as “fluffy.” 「ミュンター:古い薄っぺらのタオルでも構わない?『ふわふわ』と呼べるタオル持ってないんだけど」と、生活感がこもった質問。これにはDear Munter: An old flat towel is better than no towel at all. 「ミュンターへ:古い薄っぺらのタオルでも、ないよりはましです」との答え。バケーションや旅行モストレスになるなあ、とつい思う。

仕事で知り合った女性リンのご主人は仕事で東京に単身赴任中。11歳と7歳の2人の子どもを連れてこの夏リンは、初めて日本に行くそうだ。子供連れで世界を旅行するためのアドバイスを集めたサイト、トラヴェルフォーキッズ・コムを見つけたそう。この中の日本ページが役立ったと言うので言ってみた。冒頭にこうある。Kids already know a little about Japan if they collect Pokemon cards or buy Hello Kitty. Japan may seem very “modern,” but it has a long history of tradition, deeply embedded in everyday life. 「子供たちがポケモンカードを集めたり、ハローキティグッズを買ったりしていたら、もう日本について知っていると言っていいでしょう。日本は『近代的』に思えるかもしれませんが、長い伝統があり、それが日常生活に深く染み込んでいます」。

リンが子どもを連れて行きたいのは浅草。次の説明を見たからだ。Fake Food Shops (Asakusa): When you go into a Japanese restaurant, the menu is displayed as plastic food in the window. Go to Kappabashi street in Asakusa where you can see store after store with displays of fake food (and buy some to take home as souvenir).

「模造食品点(浅草):日本でレストランに行くと、ウィンドーにメニューのプラスチック食品が並べられています。浅草の合羽橋商店街にはこれらの模造食品を売る店がたくさんあります(お土産として買いましょう)」。リンと子供たちは興奮状態だ。「模造チョコレートパフェ買ってきてね」と言うと、熱心にメモを取っていた。私は暑い東京に行くより、近場の海でごろごろする方がいい。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)