熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2002年7月2日号
第28回: ワールドカップ
 
"Soccer just isn’t ingrained into the culture of the US the way it is elsewhere"
「他の国のようには、サッカーはアメリカ文化の中に染み込んでいないんです」


東京にいる仕事の相手先に用事で電話したら、開口一番「日本勝ちました!」と言われ、意味が分からずぼーっとしてしまった。日本の友人や家族から送られているEメールはたいてい「日本は今ワールドカップ一色です」と始まる。ボストンに住む私の周辺では、スポーツといえば野球のレッドソックスかNBAのセルティックスの話題ばかり。ワールドカップ開催中ということさえ知らない人が多いと思う。

インターネットではどうか。アメリカナショナルサッカーチームのウェブサイト、USサッカー・コムに行く。トップページにはニュース記事が。DAEGU, Korea -- Just five days after posting one of the biggest upsets in U.S. Soccer history by shocking Portugal in a 3-2 win, the U.S. Men’s National Team battled valiantly to a 1-1 draw with co-host Korea Republic today in Daegu, Korea.「韓国・大邱――アメリカのサッカー史上最大の番狂わせと言っていい対ポルトガル戦3対2での勝利から5日後、韓国の大邱総合競技場で行われた対韓国戦でアメリカ男子チームは果敢に戦い、1対1の引き分けに持ち込んだ」。アメリカがいかにサッカーに弱いのかがよくわかる。

同サイトにはチャットのセクションがあり、過去のチャットの記録が見られるようになっている。各回にゲストがいて、アメリカチームのブルース・アリーナ監督やミッドフィールダーのアーニー・スチュワートらと実際にチャットできる。これもサッカーファンが少ないからこそできるサービスだ。

対ポルトガル戦直前のアリーナ監督を迎えたチャットを見てみる。csh2000: How will you evaluate the success of the U.S. team in this World Cup? Considering we haven’t won a point outside the U.S. in a World Cup game since 1950, would one point be a success or even playing well in each game?「csh2000:このワールドカップでのアメリカチームの成功をどう評価するおつもりですか。1950年以降、アメリカ国外で開催されたワールドカップでアメリカチームは勝ち点を1点もとっていないことを考えると、1点取れば成功と思われますか。それとも各ゲームで良いプレーをすることを成功と考えますか」。ずいぶん単刀直入な質問だ。

アリーナ監督の回答。I think we can only draw conclusions after group play. At this point, our goal is to advance to the second round. We would certainly be disappointed if we came up short, but I don’t think that is the only measure of a good performance.「グループリーグの後に分かると思います。今の時点では第2ラウンドに進むことが目標です。そこまで至らなければ確かにがっかりしますが、それだけが良いプレーの指標だとは思いません」。

別の質問にこうある。sko: Bruce, What do you think will be going through your mind as you step on to the pitch against Portugal?「sko:対ポルトガル戦に際してどんな心境になると思われますか」。アリーナ監督は言う。Simply said, it’s a great honor to be representing the United States in the 2002 World Cup. The challenge is certainly the highlight of my coaching career.「簡単に言って、2002年ワールドカップでアメリカを代表できるのを大変誇りに思っています。このチャレンジは私の監督としてのキャリアでハイライトになるでしょう」。この時点では、優勝候補であるポルトガルにアメリカチームが勝つなんて誰も思っていなかったので、監督の言葉も悲壮な感じだ。

アメリカの全国紙USAトゥデーのウェブ版に、同紙のスポーツ担当編集者がワールドカップに関する読者からの質問に答えるページがあった。

ロンドンの読者からの質問だ。I think the biggest difference between the US and the rest of the world is that in every other country, a nation’s games are watched by EVERYONE, not just football fans as the event defines national pride on the biggest global stage. As such a patriotic nation, the World Cup seems an ideal stage for the US. Would the COUNTRY (not just soccer fans) get behind their team if they, say, get to the 1/4 finals?「アメリカが世界の他地域と比べて違う最大の点は、アメリカ以外の国はワールドカップで自国がプレーすると、サッカーファンだけでなく国中が試合を見るということです。試合は世界的レベルで最大の愛国心を発揮できる場になっています。アメリカ人のような愛国的な国民にとって、ワールドカップは理想的な舞台だと思いますが、例えばアメリカチームが準々決勝にでも残ると、サッカーファンだけでなく国中が応援するんですか」。

この質問に同紙編集者はこう答える。I doubt it. It’s a big country and while more and more people will get interested if the team keep going forward, it’s hard for me to imagine this nation getting so fired up as others around the world. Soccer just isn’t ingrated into the culture of the US the way it is elsewhere. 「まずないでしょうね。アメリカは広い国ですし、チームが勝ち続ければ多くの人が興味を持つでしょうが、世界の他の国のように国を挙げて応援するようになることは想像できません。他の国のようには、サッカーはアメリカ文化の中に染み込んでいないんです」とあっさりした答えだ。

しかし、ボストン市内のブラジル系地区に行くと国旗がはためき、バーではワールドカップの試合を放映して、老若男女が群がっていた。セネガル人の同僚がいる知人がいるが、セネガルがフランスに勝った日は、喜びのあまり職場にも現れなかったそうだ。サッカーに関心がほとんどないアメリカのマジョリティ−の中で、ところどころにホットになっている人や場所が散在している。いろんな人が交じり合って住んでいるアメリカの面白みを感じる時だ。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)