熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2002年6月18日号
第27回: クルマ
 
"People you interact with: Dealership vs. Who knows?"
「かかわり合う人たち:業者・どんな人に出会うやら」


昨年暮れまでマサチューセッツ州北部に住み、ボストンまで毎日片道80キロも運転して通勤していた。今はボストンに住んでいるので、クルマをそんなに使わない。売ってしまおうかと思い始めた。保険料や維持費が惜しいのだ。

クルマの取引を考え始めたらまず、伝統ある新車・中古車の価格情報誌「ケリーブルーブック(Kelley Blue Book)」が必要だ。売るにも買うにも、同誌に掲載されている価格「ブルーブックバリュー(Blue Book Value)」を確認するのが常識となっている。同誌の情報はすべてウェブサイトで無料で見ることができる。サイトによると、毎月2400万件の価格照会があるらしい。

私の今の車はトヨタカローラ1997年CE Sedan 4D。2年前に業者から買った時は約1万ドルだった。今売るといくらになるだろう。

同サイトのWhat’s my Blue Book Value?「私の車のブルーブックバリューは?」のページへ。Trade-In: The value you may expect to be offered by a dealer when trading in your own used vehicle.「下取り:あなたの中古車を下取りに出した時業者が提示するだろう価格」またはPrivate Party: The value you may expect to receive when selling your car to another consumer.「個人間取引:あなたの中古車を個人の直接売った時に受け取るだろう価格」へのリンクに分かれている。

まず、下取りの方へ。1982年から2002年までクルマの製造年をまず選択する。次のページでメーカーを選ぶ。AM General 「AMジェネラル」、Acura「アキュラ」から、Volkeswagen 「フォルクスワーゲン」、Volvo「ボルボ」まで40のメーカーがABC順に並ぶ。Toyota「トヨタ」を選ぶと次のページでは32のモデルが。私のクルマのモデルを選ぶとSelect your Engine,Transmission, Drivertrain, Mileage & Zip Code (5-digit). Then select the equipment on the vehicle, rate its condition and click Get Pricing Report. 「エンジン、トランスミッション、動力伝達系、走行距離と郵便番号(5桁)を選び、上体を評価し、価格リポート照会をクリックしてください」とある。

モデル選定をしているので、既に多くの項目が選ばれている。走行距離9万5000マイルと郵便番号を(居住地が分かるので)入力した後、状態を評価する。Excellent 「優良」からPoor「粗悪」まで4段階に分かれているのだが、よく分からない。各選択肢の説明を読んでGood「良好」を選んだ。こういう状態だ。

“Good” condition means that vehicle is free of any major defects. The paint, body and interior have only minor (if any) blemishes, and there are no major mechanical problems. In states where rust is a problem, this should be very minimal, and a deduction should be made to correct it. The tires match and have substantial tread wear left. 「『良好』状態というのは、クルマに大きな欠陥がないという意味です。塗装、ボディー、内装に(あるとしても)小さな傷があるだけで、クルマの機関にも大きな問題はありません。サビが問題となる州においては、サビの量は最小でなくてはならず、値引きによって調整が必要です。タイヤはすべてマッチし、タイヤトレッドが磨耗し過ぎていない必要があります」

やっと価格紹介にたどりついた。Trade-In Value 「下取り価格」3825ドル。ふむ。これなら売らずにキープしようかしら。全く同じことを個人間取引のページでもやる。こちらで出た価格は5365ドル。これなら売ろうかしら。

このサイトにはアドバイスのページがあるのだが、業者に下取りに出した場合と、個人間で売買した時の長所・短所を比較したアドバイスがあった。簡単に5項目に分けて説明している。すべて前者が下取りで、後者が個人間売買だ。

(1) Money: You may get less. Vs. You may get more. (2) Speed: Quick vs. Tedious. (3) People: you interact with: Dealership vs. Who knows? (4) Reconditioning: Dealer does it. Vs. You may be expected to do it. (5) Paperwork: Dealer does it. Vs. You do it. 「(1)代金:受け取る額は少ない/受け取る額は多い (2)スピード:早い/遅い (3) かかわり合う人たち:業者・どんな人に出会うやら (4) 整備:業者が請け負う/売主がやる (5) 書類:業者が請け負う/自分でやる」

私の周囲でもクルマを個人間で売買している人のトラブルは絶えない。私が今のクルマを業者から買ったのもそのせいだ。その前のクルマはひどかった。1986年のシボレーのノヴァで、友人から300ドルで買ったもの。雨が降るとエンジンはかからないし、トップは入らないし、ラジオはマジックテープでとめてあった。まあ、300ドルでは文句も言えないが。

こういったポンコツも含めクルマを愛する人たちのためのサイトがある。カートークといって、長く続く同名の人気ラジオ番組のウェブ版だ。ボストンでクルマ整備工場をやっているマサチューセッツ工科大卒のエンジニア兄弟がホストで、聴取者がクルマの問題を電話で2人に相談するのだが、実に笑える。

同サイトには、過去の愉快な質問を集めてオーディオクリップを添付したページがある。例えばこんな質問。Abby from Washington DC never lets the gas in her ’94 Toyota Corolla get below half a tank. Now she’s wondering -- is there still gas in her tank from 1994 ?「ワシントンDCのアビーは94年トヨタカローラを買ってから一度もタンクを半分以下にしたことがない。アビーは悩む。タンクには94年のガソリンがまだ入っているのか」

いつかクルマにユニークな故障を抱えた時、この2人に電話しようと思っているのだが、問題が生じるとパニック状態になりすっかり忘れてしまう。それに実際、私はこの2人の整備工場に行ったことがあるのだが、ホストの兄弟はラジオやウェブサイトで見聞する感じと違い非常に愛想が悪かった。まあ、そういうものか。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)