熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より
第10回:テロ
from Ako  to Ako 
"This is worse than Pearl Harbor. Now the sleeping giants aroused again, our response will be interesting."
「真珠湾攻撃よりひどい。今や眠れる巨人は目覚めた。我らアメリカの反応は面白くなるぞ」


惨劇を知ったのは、私が住む町にあるバイト先の画廊でだった。9月11日の朝10時前に出勤すると、オーナーが深刻な顔でラジオに聞き入っている。「ハイジャック機が世界貿易センターとペンタゴンに突入した」と不可解そうな表情で言う。午後2時に自宅に戻る途中、市役所前の星条旗が半旗になっていることに気付いた。あちこちに市民が集まり、不安そうに話している。留守番電話には、ボストンに住む友人クリスティーナからのメッセージがあった。ニューヨークに出張中の義妹と連絡がつかないと泣き声だ。

クリスティーナを電話で励ました後インターネットに接続。以下は11日の午後2時半から約1時間、いろいろなウェブサイトを通じて見た非常時のアメリカだ。

まずニューヨーク・タイムズ・ウェブ版へ。"World Trade Center Towers Collapse After Apparent Terrorist Attack" 「明らかなテロ攻撃で世界貿易センタータワー崩壊」のほか関連記事の見出しが並ぶが、緊急ニュースのため普段のレイアウトと違い余白が目立つ。記事の横にあるはずの写真は落ちていて空白だった。ハイジャック機のうち2機はボストンにあるローガン空港を出発した。地元のニュースサイト、ボストン・コムに行くと、ホームページの上方に最新ニュースの囲みがあった。

"The Massachusetts Port Authority has evacuated Logan Airport to do a security sweep of the area." 「マサチューセッツ港湾局は一斉警備のためローガン空港を封鎖」。その横の囲みには、"An American Airlines flight left Boston this morning and crashed into one of the World Trade Center towers in NY. A United Airlines flight from Boston is unaccounted for. Globe reporters want to talk to anyone who has information about the plane flight out of Logan. Please call 617-929-3100 or 617-929-3400." 「ボストンを今朝出発したアメリカン航空機がニューヨークの世界貿易センターに激突しました。ボストン発ユナイテッド航空機の所在は未確認です。ボストン・グローブ紙記者はこれら2機についての情報を求めています。617-929-3100 oまたは617-929-3400へ電話を」と情報提供を求めていた。

政府機関のサイトはどうだろう。国防総省のサイトにはテロに関する情報はない。ホワイトハウスに行くと"Remarks by the President After Two Planes Crash Into World Trade Center. Emma Booker Elementary School Sarasota, Florida 9:30AM." 「航空機2機が世界貿易センターに激突後の大統領演説 午前9時半フロリダ州サラソタのエマブッカー小学校で」の見出しが。クリックすると"Ladies and gentlemen, this is a difficult moment for America. I, unfortunately, will be going back to Washington after my remarks." 「皆さん、アメリカは困難な時を迎えました。残念ながらこの後すぐワシントンに帰らなければなりません」と始まる、フロリダの訪問先でのブッシュ大統領の短いスピーチが掲載されていた。

ニューヨーク市のサイトへ。まず"NYC EMERGENCY INFORMATION" とある。そこには"Only emergency vehicles can enter Manhattan. All Subway service system-wide is suspended until further notice. Busses are operating. No fares are being collected. All airports nationwide are closed." 「救急車両以外、マンハットン島に入ることを禁じます。地下鉄は追ってお知らせするまで閉鎖です。バスは稼動中で料金は無料。全米の空港は閉鎖中」と細かく情報をリストアップしていた。

ハイジャックされたアメリカン航空のサイトは、混んでいるのか全く接続できない。ユナイテッド航空の方はホームページに会長からのお悔やみのメッセージがあった。

ヤフーのチャットに行くと、"Attack on America"「アメリカへの攻撃」というチャットルームに40人ほどいた。

"Paylog: My friend works in WTC. We can't get hold of him. Another friend might been one of the hijacked planes." 「ペイドッグ:友達が世界貿易センターで働いていて連絡がつかない。別の友達がハイジャック機に乗っているかもしれない」。"Sweetgirl: Maybe the third war beginning?"「スイートガール:第3次大戦が始まるの?」 "Brighteyes: I'm not much affected by this and I kept thinking how it all looked like a movie." 「どうも実感がわかないんだ。映画を見ているみたいで」。"Mike: Like die hardest or something eh?" 「マイク:『超ダイ・ハード』とか?」"Dolphins: If this comes to war, does anyone know about the draft. I'm 20 male and scared." 「ドルフィン:戦争になったとして誰か徴兵のこと知ってるか。20歳で男だから怖いんだ」。"Brighteyes: draft is 18 and up" 「ブライトアイズ:徴兵は18歳以上だよ」"Billy: This is worse than Pearl Harbor. Now the sleeping giant is aroused again, our response will be interesting." 「真珠湾攻撃よりひどい。今や眠れる巨人は目覚めた。我らアメリカの反応は面白くなるぞ」など感情的な発言も多い。

いたたまれなくなったので、友人スーザンの所へ出かけて一緒にテレビを見た。スーザンの息子はワシントンDCの政府機関勤務だが無事だった。タワーが崩壊する様子が繰り返されると、スーザンはテレビを消した。「私たちの暮らしを生きなくちゃね」と微笑んで、いきなり昔の彼氏の話を始めた。

(時事通信社 世界週報 2001年10月9日号)