熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2003年5月6-13日号
第49回:パロディー
 
"U.S.Forms Own U.N."
「米国、独自の国連結成へ」


米英軍はバグダット制圧を果たしてフセイン政権は崩壊。イラク戦争は収束に向かっているように見える。私の勤める会社があるビルの警備員の息子は陸軍兵士で、今はコソボに駐留中。7月に帰国予定になっていたので、「イラクに行かなくてよさそうだ」とほっとした様子だ。

バグダッド市民の笑顔が報道で伝えられ、盛り上がっていた反戦運動も影を潜めた感がある。近所で目立つのは、兵士の無事と帰還を願ってあらゆる場所に結ばれた黄色いリボンだ。地元のニュースサイト、ボストンドットコムでは、イラク戦争に関する意見を求める質問が日替わりで掲載され、掲示板にコメントを張り付けることができる。今日の質問はWho should lead the rebuilding of Iraq after the war? 「誰が終戦後のイラク復興を主導すべきか」という質問。

掲示されたコメントを読むと、The United States and Britain and the Iraqi people. Definitely not the French. 「米国と英国とイラク国民。絶対にフランスはだめ」。I think the Iraqi people should choose their own governing, possibly with the help of the U.S. & Britain. Definitely not France & Germany. 「イラク国民が選ぶべきだと思う。多分、米国と英国の助けを受けるだろうけど。絶対にフランスとドイツはだめ」など。この戦争でアメリカ人の中に反仏・反独感情が深く根付いたのは確かだ。

最良のニュースソース

こういった深刻な状況にあると、その状況をそのまま深刻に受け止める方法と、笑い飛ばして乗り切る方法とがあると思う。

笑い飛ばすには最高のサイトがある。オニオンドットコムといって、毎週更新されるパロディー新聞である。1995年にオンライン登場後、大変な人気だ。新聞の体裁を取っているが、どのニュースもすべて冗談である。世界の歴史を振り返れば、上質のパロディーが最も真実を突いていることがよくある。過去の号をまとめて掲載、出版した本は長くベストセラーリストに載っている。

サイトに行くとまずこうある。America’s Finest New Source 「アメリカの最良のニュースソース」。最新号のトップニュースの見出しは、Bush Subconsciously Sizes Up Spain for Invasion 「ブッシュ大統領、意識下でスペイン侵略判断へ」とある。戦争が癖になっているブッシュ大統領は、アスナール・スペイン首相のワシントン訪問時、バスク独立運動や王制のことなどを質問。スペインをイラクと同様 oil-producing nation「オイル産出国」とみなして(スペイン算出のオイルは石油ではなくオリーブオイルと大統領は側近に注意される)軍事行動をほのめかし、首相を当惑させるという話。大統領を徹底的にからかった記事だ。

イラク戦争が始まった直後の同サイトにはこんな記事があった。U.S. Forms Own U.N.「米国独自の国連を結成へ」とある。米国が国連での外交努力を放棄し戦争に踏み切った経緯をからかった記事で、こう始まる。Frustrated with the United Nations’ consistent, blatant regard for the will of its 188 member nations, the U.S. announced Monday that formation of its own international governing body, the U.S.U.N.「首尾一貫して露骨に加盟188カ国の意思を尊重する国連の態度に耐えられなくなった米国は、独自の国際的統治組織、『米国国連』を結成することを月曜に発表した」とある。

記事によると、事務総長はコリン・パウエル国務長官で、本部はブッシュ大統領のお膝元のテキサス州ヒューストン。安全保障理事会の常任理事国代表はディック・チェイニー副大統領、ドナルド・ラムズフェルド国防長官ら5人だが、もちろん全員米国の利害を代表している。米国国連最初の決議は、イラク国民とイラクの石油資源を解放する、というもの。

チェイニー副大統領の談話がある。I can’t tell you how much easier it is to achieve consensus when you don’t have to worry about dissent.「反対意見を心配せずに意見をまとめるのがどれだけ簡単か計り知れない」。記事の最後にThe official U.S.U.N. language is English. The official religion is Christianity.「米国国連の公式言語は英語、公式宗教はキリスト教」と痛烈に米国政府の現状をからかっている。

ブッシュ、実戦に参加?

また同じ号には、Bush Bravely Leads 3rd Infantry Into Battle 「ブッシュ大統領、勇敢にも第3歩連隊を率い戦場へ」という記事がある。ブッシュ大統領が自らイラクに赴いて戦闘員として戦い、兵士らの信頼を集めているという話で、記事には大統領が武器を抱えて戦う合成写真も付けられている。

多くの兵士が、実戦経験のないお坊ちゃん育ちの大統領の下で戦闘に加わるのを嫌がっていたが、腕を失った兵士のために何十キロも走って氷を運ぶなど、大統領の態度を目にして見直した、と記事にはある。

大統領は、ワシントン高官らを説き伏せて実戦に参加したと記事にある。兵士の談話。I used to be cynical about politicians who are born into privilege and wealth. I thought, “Sure, they talk a good game about tour duty to protect democracy, but when push comes to shove, they’d rather send off the nation’s poor, uneducated, and underprivileged to do the fighting for them,” said Pvt. Frank Elkins, 19. “I always figured they’d rather see somebody else die in some foreign land than make that sacrifice themselves. But now I know I was wrong.” 「特権と富を持って生まれた政治家たちに対して僕はシニカルだった。『民主主義を守るアメリカの義務についてやつらは口先でうまいことを言うけれど、いざとなれば戦争に送り込まれる、のはこの国の貧しい、教育のない、恵まれない階層だけじゃないか』と思っていた、19歳のフランク・エルキンス兵卒。『自分たちが犠牲になるより外国でべつのやつが死ねばいい』と政治家たちは考えると思っていた。でも、僕は間違っていたと分かった」というコメント。

実におかしくかつ悲しいパロディー談話である。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)