熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2003年4月22日号
第48回:戦争賛成派・反対派
 
"Freedom of speech is one of the rights our military has fought and died for."
「言論の自由は我が国の軍隊が戦って獲得したものです」


先日、私が住むボストンの中心地で、約2万5000人が参加した大規模な反戦集会があった。すごい熱気だった。学生の多いボストンらしく若い男女が多かったが、1960年代の再現とばかりに頑張るベビーブーマーも。プラカードを見るとWhy not bomb Texas? They have oil too 「テキサスを爆撃すれば?あそこにも石油はある」、Make Jobs Not War 「雇用を作れ、戦争でなく」などいろいろ。

こういう集会を見た後だと、全米に反戦派があふれている気がするが、そんなことはない。新聞報道ではアメリカ人の75%がブッシュ大統領とイラク戦争を支持している。私の職場の同僚に1人際立って親ブッシュ派がいる。32歳の彼は言う。「戦争したがるやつなんて誰もいない。俺はただ自由を支持しているだけ。独裁者は許せない」

大ボイコットキャンペーン

保守派のニュースサイトとして知られるフリーリパブリック・コムに行ってみた。サイトのトップには、アメリカンイーグルが舞い、Liberty Weekend 「自由の週末」ど題されたイベントの告知をしていた。宣伝文にはRally for America. Support Our Troops. Liberate Iraq. No to Terrorism. 「アメリカのために集まろう。我が国の軍隊をサポートしよう。イラクを開放しよう。テロリズムにノーと言おう」とある。

その下にこうある。So-called “anti-war” protests are popping up in cities all across the nation. We will not allow these communist organized demonstrations go unanswered. Patriotic Americans are countering these terrorist supporting leftists wherever and whenever they pup up. Form a group, grab your signs, unfurl the flag and prepare to support your country! 「いわゆる『反戦』活動が国中の至る市で起きている。共産主義者に組織されたこうしたデモには抵抗しなければならない。愛国的アメリカ人は、テロリストをサポートする左翼が登場するところでは常に抵抗しよう。グループを結成し、プラカードを掲げ、国旗を広げ、国を守るために備えよう!」

読むだけで単純さにうんざりしてしまうが、これがアメリカ人の多くの反応だろう。同サイトが有名になったのは、人気バンド、ディキシーチックスのボイコットキャンペーンを組織したこと。日本でも報道されたと思うが、開戦前イギリスのコンサートで同バンドがブッシュ大統領を批判した。それをいち早くこのサイトが伝え、全米のラジオでのボイコット、CD焼き討ちといったキャンペーンを組織した。

同サイトのフォーラムを見る。ディキシーチックスの曲をかけることをやめたテキサス州のラジオプロデューサーの書き込みがあった。The Chicks’ comment is one that doesn’t ‘Fly’ with many local listeners. The overpowering response was to stop playing their music with responses like: “Boycott forever” “They should be called the French Chicks.”“Let them sing in Iraq.” 「チックスのコメントは当局のリスナーには聞き捨てならないものです。膨大な数の反応があり、チックスの曲をかけるなとのことです。その反応の幾つかは『永久にボイコットしろ』『フレンチチックスとバンド命を変えろ(軍事介入に反対したフランスをからかって)』『イラクで演奏させろ』などです」

さらにこのプロデューサーの意見として、Freedom of speech is one of the rights our military has fought and died for. So is freedom of choice, and our listeners are voicing theirs. 「言論の自由は我が国の軍隊が戦って獲得したものです。選択の自由も同様で、私たちのリスナーは彼らの自由を表明しています」とあった。その後、ディキシーチックスは謝罪し、コメントを撤回している。

反戦サイトに55万人の署名

一方の反戦サイトで影響力が大きいのはムーブオン・オーグだ。シリコンバレーのソフトウエアデベロッパーらが96年に組織したサイトで、Eメールなどを使って効果的な署名活動を行っている。ホームページのトップにはA Citizens’ Declaration「一市民の声明書」がある。同サイトが用意したこの声明に賛成する場合、名前と連絡先を書き込んで同サイト事務局へ送信。事務局はそれを集めて議員や大統領などに送っている。現在55万人の署名が集まっているそうだ。

声明の全文はこうだ。As a US-led invasion of Iraq begins, we, the undersigned citizens of many countries, reaffirm our commitment to addressing international conflicts through the rule of law and the United Nations.「アメリカが主導するイラク侵略が始まった今、以下に署名した諸国の市民は、国際的紛争は法の下に、また国連を通じて解決されるべきだという見解を再度確認しました」。さらに、By joining together across countries and continents, we have emerged as a new force for peace As we grieve for the victims of this war, we pledge to redouble our efforts to put an end to the Bush Administration’s doctrine of pre-emptive attack and the reckless use of military power. 「国と大陸を超えて集まった我々は、平和を目指す新しい力として登場しました。戦争被害者の冥福を祈りながら、ブッシュ政権の先制攻撃主義と無謀な軍事力行使を終わらせることに力を尽くすことを誓います」

その下には、同サイトと共同で活動を始めたMusicians United to Win Without War 「戦争なしで勝利するために集まる音楽家たち」の告知がある。REM、ピーター・ガブリエル、シェリル・クロウなど人気ミュージシャン約70人が名を連ねている。この団体は先日ニューヨーク・タイムズ紙に全面広告を出した。広告にはWar on Iraq is Wrong And We Know It 「イラクとの戦争は間違っている。我々は知っている」とあった。テキサスのラジオ局はこれらのミュージシャンも皆ボイコットしているのか、一体どんな曲をかけているのだろうと思った。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)