熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2003年3月11日号
第45回: フィットネス
 
"Here’s your chance to earn a blackbelt! "
「黒帯を獲得するチャンスです!」


最近、近所にできた新しいスポーツジムに入会した。今年のボストンの冬は極寒で、完全に運動不足気味。家と会社を車で往復するだけの日々なので、一念発起だ。

入会するとすぐ、トレーナーとの面会の予約を取らなければならないという。このジムでは、フィットネスリンクス・コムというオンラインのトレーニングサイトと提携していて、その説明をするらしい。

面会の時間は朝の6時半。暗いうちにジムに行くと、空手の先生だと言うトレーナーのジェームズが待っていた。ジムには筋肉を鍛える様々なマシンと、心肺機能を鍛えるトレッドミルやステアマスターが並ぶ。「まず5種類からスタートしよう」とジェームズは言い、、足やおなかの筋肉のためのマシンの使い方を指導してくれる。どのマシンにもコンピューター画面が付いている。自分のID番号を打ち込むと、どれだけトレーニングしたかを記録してくれる。心肺機能用マシンも同様だ。モニターが付いていて、トレーニング量をインプットできる。

へとへとになった後、自宅に戻りフィットリンクス・コムのサイトへ行った。ジェームズが設定してくれたパスワードを打ち込むと私専用の画面になった。トップにMy FitPoints 「私のフィットポイント」とあり、ポイントは627とあった。その下に、CV Time「心肺機能トレーニング時間」1:35:08、CV Calories 「心肺機能トレーニング消費カロリー」849とある。インプットされた運動量から計算してフィットポイントをはじき出すらしい。その下にStandings 「順位」があってMy Facility: FitPpoints - 45/117, Calories - 40/117とある。私が所属している施設内でフィットリンクスに登録している女性117人のうち、私はフィットポイントで45位、消費カロリーで40位にあるらしい。登録した日にこんなに順位が高いなら、がんばればすぐ1位になれるかもしれない。順位を見ると、1位のJen Boothさんが4,713、2位のSturlaさんが2,212、3位のVeronicaさんが2,116。順位は月ごとに獲得したポイント数なので、4,713というのはすごいポイントという感じが伝わってくる。

さらに、「フィットポイントアウォード」の説明があった。FitPoint levels are achieved somewhat like the different belts in martial arts. The more points you have, the higher your level. Here’s your chance to earn a blackbelt! 「フィットポイントのレベルは武道でいう帯のようなものです。より多くのポイントを稼ぐと、より高いレベルに達します。黒帯を獲得するチャンスです!」。ジェームズが言っていた。ポイントがあるレベルに達すると、名前がジムに張り出されTシャツなどの商品がもらえると。最高レベルの500,000 Platinum「プラチナ」、 400,000 Gold 「ゴールド」、15,000 White「ホワイト」と並ぶ。そして、FitPoints needed to reach White Level 「ホワイトレベルに達するのに必要なフィットポイントは14,372」と計算してくれていた。

ジム以外で行ったエクササイズもポイントに加えることができる。私はヨガをよくやるので、それも加算したい。エクササイズをリストから選べるのだが、そのリストが長い。Aerobic Exercise 「エアロビクス」、Aikido「合気道」、Archery (nonhunting) 「アーチェリー(ノンハンティング)」から始まり、Bowling「ボウリング」やJump Rope 「縄跳び」、Mowing lawn 「芝刈り」まで250種類あった。ヨガを選んで時間を入力すると自動的に消費カロリーを計算、フィットポイントに加算する仕組みだ。

サイトにはこのほかに様々な記事やQ&Aなど、盛りだくさんの情報があった。特に記事が多かったのはモチベーションに関してだ。エクササイズのスペシャリストが答えるQ&Aのコーナーにはこんな質問が。

Q: I realize that resistance training is important and that it will help me keep doing what I want to do. (I am 54.) But it is so boring. How can I make my workouts with weights more enjoyable? -- C.S., Tacoma, WA 「質問:レジスタンストレーニグ」は重要で、私がやりたいことを続けるために必要だと分かっているんですが(私は54歳です)、ものすごく退屈です。どうしたらウェートを使ったトレーニングをもっと楽しめるでしょう? C.S.ワシントン州タコマ」。私もぜひ尋ねたい質問だ。

A: Like many people, you’ve learned that telling yourself something is good for you is not always enough motivation to get you to do it. 「答:多くの人がそうであるように、体に良いことだと自分に言い聞かせるだけでは十分なモチベーションにならないということを学ばれたようですね」。私に言われているようだ。Something is boring when you approach it without focus. During the activity, your mind wanders all over the place because it doesn’t find the workout interesting. 「集中力を欠いている時、何か退屈だと思うものです。トレーニングを面白いと思っていないから、あなたの意識は散漫になりがちなのです」

さらに続く。You could be comparing yourself to other weight lifters, which is taking away from your self-esteem and minimizing your physical improvement. The day that I recorded my personal best on the chest press was exciting to me personally. I didn’t care that all of the male college students watching me could lift much more. 「あなたは他のウエートリフターと自分を比較していませんか。そうするとあなたの自尊心が奪われ、体の鍛錬は最小の結果となります。チェストプレスでベストの成績を出した日は、私にとって個人的に最高の1日でした。周りにいた大学生たちが私よりもっと思いウェートを挙げることは少しも気になりませんでした」とある。感動した。その通り。スポーツやトレーニングで私は、人と比較して失意する傾向にあるのでしっかり心に留める。

励まされたためか、その後せっせとジムに通い2週間後にはなんとフィットポイントが2,000を越えた。ジムの女性陣順位5位に顔を出してしまった。体は筋肉痛で少しやり過ぎか、と思うのだが、サイト上で私の名前を見るのがたまらない。すっかりはまってしまった。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)