熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2003年2月11日号
第43回: ウィンターブルース
 
"Sleep problems, Lethargy, Overeating, Depression, Social problems, Anxiety, Loss of libido, Mood changes. "
「不眠、無気力、過食、うつ、社会性問題、不安感、性欲低下、気分の浮き沈み」


寒い。私の住むボストンはこの冬、本当に寒い。地元紙のサイト、ボストン・ドットコムのお天気ページに行く。次の5日間の予報が出ている。明日は、Flurries 「小雪」とあり、A frigid air mass will remain in places across the region. Cold. High 24 to 29. Low 15 to 22. 「この地方に強い寒気団がとどまるもよう。寒い1日。最高気温セ氏マイナス4度から同2度。最低気温はマイナス9度から同5度」。アメリカは珍しく華氏の温度を採用している国。以前はぴんとこなかったが、気温の数字が20台になると非常に寒いという実感が最近つかめてきた。

次の日はSnow. A chance of light snow or snow showers until midday. Brisk and very cold late. 「雪。昼までに小雪または吹雪の見込み。厳しい寒さで夜には極寒」。そしてその翌日。P. cloudy. The coldest temperatures of the season are forecast to build across the region. Partly sunny, brisk and frigid. Dangerous windchill values are forecast throughout the day. Wind chill values in the range of -15 to -30 degrees possible. 「一部曇り。この冬最も低い気温が地域一帯で予想される。ところにより晴れて極寒。1日を通じ、体感温度は人体に危険を及ぼすこともあり得る。風速冷却はマイナス26度から同34度まで下がる可能性」。大阪生まれで東京暮らしが長かった私には寒過ぎる。

こんな中、友人にスキーに誘われた。お隣ニューハンプシャー州のルーンマウンテンというスキーリゾートだそうだ。寒い中、じっと家にこもっているのも嫌なので、いそいそと用意を始めた。同リゾートのウェブサイトヘ行く。スキー場の当日のコンディションがあった。Trails open: All 45 trails; 5 tree skiing areas. Lifts open: 10/10. Snow surface: Packed Powder. New snow last 24hrs: 0”. Base temp: -5 F. Summit temp: -12F. 「オープンしているスロープ:全5スロープと全5林間スキーエリア。オープンしているリフト:全10リフト。雪のコンディション:圧雪したパウダー。この24時間での深雪:なし。山のふもとの気温:マイナス20度。山の頂上の気温:マイナス24度」。友人から電話があった。「やめよう、寒過ぎる」。確かに。この気温で風でも吹かれたらたまらない。

アメリカでは、サマータイムを実施しており、11月に時計を1時間早める。このため、ボストンでは冬場は夕方4時にはもう暗い。マサチューセッツの冬は6度目だが、毎冬11月頃から気分がめいることに気付いた。特に今年は寒過ぎてウィンタースポーツもできないほどの毎日だ。どうすればいいのだ。

このことを知り合いに話すと、このうつ気分はseasonal affective disorder (SAD)「季節性情動障害」というかなり大げさな名前の心理状態で、非常にポピュラーらしい。知らなかった。ウェブで調べてみよう。

Seasonal Affective Disorder Association「季節性情動障害協会」という団体のサイトがあった。The world’s longest established support organization for Seasonal Affective Disorder.「世界で最も長い歴史を持つ季節性情動障害者のためのサポート機関」とあり本部はイギリスだ。考えて見れば、世界にはボストンよりはるかに冬が厳しい地域がある。皆どうしているのだろう。

What is SAD? 「季節性情動障害とは」のページへ。SAD (Seasonal Affective Disorder) is a type of winter depression that affects an estimated half a million people every Winter between September and April, in particular during December, January and February. 「季節性情動障害とは、毎冬9月から4月、特に12、1、2月と約50万人の人に影響を与える冬季のうつ症状です」とある。この50万人とは、イギリスだけと思われる。大変な数だ。さらに、For many people SAD is a seriously disabling illness, preventing them from functioning normally without continuous medical treatment. For others, it is a mild but debilitating condition causing discomfort but no severe suffering. We call this ‘winter blues.’「多くの患者にとって、季節性情動障害は常に治療を施さないと日常生活に支障を来す深刻な病気です。軽症の患者にとっては、深刻ではなくても不快かつ活力を失わせる軽いうつ症状となります。この軽い症状は『ウィンターブルース』と呼ばれます」。ウィンターブルース!私の気分にぴったりの言葉だ。

同サイトの症状のページをチェックする。深刻な場合、以下の幾つかが表れるという。 Sleep problems, Lethargy, Overeating, Depression, Social problems, Anxiety, Loss of libido, Mood changes. 「不眠、無気力、過食、うつ、社会性問題、不安感、性欲低下、気分の浮き沈み」。このページの最後にこうある。It occurs throughout the northern and southern hemispheres but is extremely rare in those living within 30 degrees of the Equator, where daylight hours are long, constant and extremely bright. 「季節性情動障害は北半球、南半球を通じて発症しますが、赤道から30度圏内では極めてまれです。その地域では日照時間が年間を通じて長く、強いためです」。これを読むだけで、その圏内に引っ越したくなる。サマーブルースなんてないはずだし。

治療法だが、カウンセリングや抗うつ剤投与もあるが、一般的なのは、Light therapy「光線治療」とのこと。強い光を放つ電球を用意して、その光をせっせと浴びることらしい。サイトにはこうある。It has been proved effective in up to 85 per cent of diagnosed cases. That is, exposure, for up to four hours per day (average 1 - 2 hours) to very bright light, at least ten times the intensity of ordinary domestic lighting. 「治療を受けた85%のケースで効果を表しています。1日4時間(平均1、2時間)、非常に明るい光、家庭で普通に使う光の少なくとも約10倍の光に当たることです」

これを読んですぐさま、スキーをキャンセルした友人に電話した。「日焼けサロンへ行こう」。友人も大喜びでオーケーとのこと。ボストンの長い冬、まだ折り返し地点というところ。工夫を重ねて元気に乗り切りたい。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)