熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2002年12月24日号
第40回: ロマンス
 
"Go to the park and feed the birds."
「公園へ行って鳥に餌をやろう」


私はデートが苦手だ。男性も恋愛も大好きだけれど、これ見よがしにロマンチックなムードや映画・テレビで見るようなデートを演出されると、照れくさくてしらけてしまう。

今付き合っている彼氏とも、付き合ってそんなに長くないのにもう家族のようで、ロマンチックさのかけらもない。彼もさすがに不安を感じたよう。「こんなサイトがあるんだけど関心ある? あるなら入会するけど」と書いたEメールを送ってきた。

サイトの名前はスコアブラウニーポインツ・コム。score brownie pointsというのは「点数を稼ぐ」という意味の表現だ。男性が2カ月に1度47ドルを支払うと、サイト側が女性の好きそうなプレゼントを選んで、品物と包装紙にリボン、包装の仕方の説明書などを会員の男性の方に送ってくるそうだ。男性は説明にしたがってラッピングし彼女に渡すだけ。サイトのホームページには、Making you look like the big romantic hero, while we handle all the girly stuff. She gets the stuff she wants; stuff you’d never buy in a million years. 「我々に女性好みのギフトを任せるだけで、あなたは最高にロマンチックなヒーローになることができます。彼女は、お気に入りのギフト――あなたが自分では絶対に買わない類のもの――を手に入れ、あなたはより豊かな人生を送ることができます」とある。

どんなギフトが送られてくるのだろう。サイトには例として商品の写真が載っていた。チーズフォンデュセット、花の形のクッキー、シルクのスカーフ、アロマセラピーグッズ、ハート型のキャンドル、ミニ家庭菜園などだ。注意書きにWe will never include anything that will make her think you want her to do housework or cook for you. We have found many little ‘pleasant experiences’for her, so when she uses what you give her, she will certainly think of you in a positive way. 「彼女が家事や料理を強制されているような気持ちにさせるものは決して送りません。彼女が『うれしい体験』と感じられる小さなギフトを多数集めました。彼女がそれらを使うたびにあなたのことを好意を持って考えるでしょう」とある。アイディア商売である。

イニシャルJ.D.という男性会員からのコメントが掲載されていた。I can see this being a fantastic service for any man without the time or knack for buying his women presents, as well as being great guys for smaller towns with less stuff available to choose from. 「このサイトの素晴らしいサービスを使えば時間やセンスがないどんな男性も、女性にプレゼントを買ってあげられる。それに、小さな町に住んでいてプレゼントの選択肢が少ない男性に最適」とある。しかし、こんなことに散財するなら、おいしいお酒でもおごってくれたほうがよほどありがたい。「お願いだからこんなサイトに入会して、いらないものを贈ってこないでね」と返信を送っておいた。

しかし、こんなにロマンチックさを欠いているとふられるかもしれない。デートが苦手なら、練習を重ねれば克服できるかもしれない――と29歳の同僚ジョッシュに話したところ、あるサイトを教えてくれた。クーリストデート・コム。様々なデートの案を集めたサイトで、「時々参考にする」とジョッシュは照れながら言う。Inexpensive Dates 「安上がりのデート」、Outdoor Dates「アウトドアのデート」など27のカテゴリーに分かれたデートのアイデアを網羅している。

例えば、Free Dates「無料のデート」。Go to the park and feed the birds. Take a bag of bread. Share childhood memories. 「公園へ行って鳥に餌をやろう。バッグいっぱいのパンを持っていこう。子供の頃の思い出を語り合おう」とか、Exercise together a couple of times a week (walking, jogging, etc.) .「週に2、3度一緒にエクササイズをしよう(ウォーキング、ジョギングなど)」とか、Baby-sit for a young couple so they can have a night out alone. 「若いカップルが外出できるように、子守を一緒にする」などだ。

新聞でたまたま読んだのだが、このサイトを始めたマイケル・ウェブさんは高校時代の3年間に400回デートをしたプロ中のプロとのこと。実に頼もしい。

Unusual Dates「いつもと違うデート」のカテゴリーを見る。Go to the mall with your date and two easels and painting supplies. Put up a sign offering free portraits by budding artists, then one of the couples do their best portrait while the other spends five minutes drawing stick figures. Show them both to the person, ask which is better and give him/her the opposite (or give away both portraits).「彼氏か彼女と一緒に、2台のイーゼル、ペインティングに必要な材料を持ってショッピングモールへ行く。素人絵描きによる無料の肖像画と掲示し、1人はできる限り懸命に肖像画を描き、もう1人は5分間で棒線画を描く。両方をモデルに見せ、どちらの方が良いかを聞き、好きでない方をモデルにあげる(もしくは両方の肖像画をあげる)」。うーむ。こんなデート、したい人がいるのだろうか。サイトの創始者マイケルさんはやってみたのだろうか。

読者からのアイデアを掲示したページがあった。その中の一つ。Pick up your dates and blindfold them. Drive around for a while, so they’re really confused. Finally stop in front of a large cornfields, and guide them (still blindfolded) to the middle, where you have couches and a TV set up to watch a scary movie. It’s great, and your date will love the creativity! Tonya「彼氏か彼女に目隠しをする。しばらく運転して、彼氏や彼女がどこにいるか分からなくしよう。大きなトウモロコシ畑の前で車を止めて、まだ目隠しをしたまま畑の中央まで案内する。そこにはあなたが用意した長いすとテレビセットがあり、一緒にこわい映画を見よう。あなたの彼氏や彼女はあなたのクリエイティビティーに驚くはず――トニヤ」とある。こんなことをしている暇が誰にあるのだろう。そんなにデートというのは工夫を凝らずべきものなのか。

そこで、私は特にロマンスを盛り上げる工夫をまだ何もしていない。ふられたくないが、トウモロコシ畑に長いすを運び込みたくもない。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)