熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2002年9月17日号
第33回: 弁護士
 
"What type of lawyer are you looking for?"
「どんなタイプの弁護士を探していますか」


アメリカが訴訟大国で、どんなもめ事にも弁護士がかかわることはよく知られていることだ。私が住むボストンは弁護士になるためのロースクールが多いため、弁護士がやたら多い。

友人の韓国系アメリカ人女性ジョイは33歳で、弁護士生活5年目。週80時間ほど働かされ「もう本当にいや。やめたい」と会うたびに言っているが、非常に高額のロースクールの学費で追った借金を返すためそうはいかない。社会的地位の高さと安定性、高収入に引かれて人気のある職業の1つだが、ジョイの疲れきった顔を見ると、現実は厳しいと思う。

日本の事情はよく知らないが、アメリカの弁護士が請け負う仕事は細分化されていて、「何でも屋」というのは少ないようだ。必要な弁護士を探すには、合った分野の弁護士を探さなくてはいけないが、それに便利なウェブサイトがある。その名もずばり、ローヤーズ・ドットコム。法律の大手専門出版社が提供しており、法律関連の情報提供のほか、実際に弁護士を検索できる。

恥ずかしながら、数年前に私はアメリカで離婚した。その際、弁護士を雇う必要があり、知り合いに頼んだが、当時このサイトを知っていたら比較のためにも使えたと思う。このサイトの弁護士検索ページへ。

質問はいたって簡単。 What type of lawyer are you looking for?「どんなタイプの弁護士を探していますか」に続き、personal uses「個人ユーザー」の欄には、Trusts and Estates 「委託と財産」、Wills and Probate「遺言と検認」など50種の法律分野が並ぶ。もう一方のbusiness users「ビジネスユーザー」の欄にはBanking Law「銀行法」、Real Estate 「不動産」などこちらもずらり。ここで法律分野を指定した後、次のWhere are you looking for a lawyer?「どこで弁護士を探していますか」What language should the lawyer speak?「何語を話す弁護士を探していますか」に答える。私が弁護士を探したときは、日本語ができる弁護士がボストン界隈にいるとは期待もしなかった。実際いるのだろうか。

検索すると、Divorce, Lawyers & Firms who speak Japanese in Boston, MA. Found 1 listings. 「離婚を扱い、日本語を理解するボストンの弁護士とその事務所は1件見つかりました」とある。Burns & Levinson LLP「バーンズ&レビンソン共同法律事務所」でボストン市内にある。扱う分野は、Automotive Dealers「自動車取り扱い」やInternet and Technology「インターネットとその技術」、White Collar Criminal Defense「ホワイトカラー犯罪の弁護」まで幅広い。Divorce and Family「離婚と家族問題」ももちろんある。Firm Size: 72 「弁護士の数:72人」というのは大きな事務所なのだろうか。

その下に事務所所属弁護士の経歴がずらり並ぶ。日本語ができる弁護士を探すと、1人いた。Renee Inomata 「レネー・イノマタ」というから日系アメリカ人だろう。Languages: Japanese and German 「語学:日本語、ドイツ語」とある。しかし、Practice Areas: Business Litigation; Labor and Employment Law; Intellectual Property.「扱う範囲:ビジネス訴訟;雇用関連法;知的所有権」とあり、離婚はやりそうにない。すべての弁護士のEメールアカウントが明記されており、直接質問ができる。

検索結果の横には離婚弁護士を選ぶときにしたほうがいい、膨大な質問のリストがあった。その一部はDo you charge for faxes, copies, and long-distance telephone calls? If I decide at any point I’d like to take control and negotiate directly with my spouse or with my spouse’s lawyer to save money, will you let me do that, using you as a coach? Based on what you know about my case, how would you predict a judge would rule on it? 「ファックスやコピー、長距離電話は別に請求しますか。コストを下げるために、配偶者またはその弁護士と私が直接交渉しようとした場合、あなたをコーチとして交渉させてもらえますか。私のケースを見る限り、判事はどのような判決を下すと予想しますか」などだ。私が知り合いの弁護士を雇った際は、離婚や弁護士を雇うことだけで頭がいっぱいで、こんな質問は全くしなかった。冷静さを欠いていたのだ。

同サイトにはチャットのコーナーがあり、毎週決まった時間に法律相談ができる。私には気になるImmigration Law 「移民法」特集のチャットが8月中旬にあったようだ。答える弁護士は2人。チャット記録の冒頭にはこうある。The questions around immigration law may be simple - “How can I stay in the U.S.?” “How can I employ these people?” but getting the answers and the documents can eat up time and money. Learn more about immigration law with attorneys Wilson and Velasquez. 「移民法に関する質問は簡単です。『どうしたらアメリカに滞在できるのか』『どうしたら外国人を雇えるのか』。しかし、答えを得て資料を手に入れるには時間とお金がかかります。ウィルソン、ベラスケス両弁護士と共に移民法に関して学びましょう」とある。

ビジターの中に1人日本人女性がいた。質問はshoko: I’ve been working under H-1 last five years and now I am thinking to start my own business. What visa type should I go with. E-2 or EB-5?「ショーコ:この5年間H1ビザで働いていますが、ビジネスを始めようと考えています。どんなビザが必要ですか。E2ですか、EB5ですか」。弁護士と、ビジネスを始める際の資金のやりとりが続いた後、Wilson: Shoko, The E-2 is the investor visa. Practically speaking $10,000 would be a touch E-2.「ウィルソン:ショーコ、E2ビザは投資者用ビザです。現実的に言って、1万ドルの当初資金ではE2を取るのは難しいでしょう」との回答でやりとりは終わっている。

サイトでは、弁護士を雇う前にいろいろな法律の勉強が自分でできる。弁護士が氾濫する中、賢い消費者になるには欠かせぬサイトだ。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)