熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2001年11月6日号
第12回: アフガニスタン
 
"Life expectancy at birth: total population; 46.24 years"
「平均寿命:国民全体:46.24歳」


最近のボストン・グローブ紙によると、同時多発テロ以降、中東に関するコースを選択する大学生が急増中とのことだ。地元の名門ハーバード大学では、新学期の中東入門コースに例年の約5倍の学生が殺到し、担当教授が対応に大わらわという。受講を決めた同大哲学選考の学生は「テロを知的に理解できず頭が空白に。中東やイスラムについて何も学んでいないことに愕然とした」とコメントしている。

大学生だけでなくアメリカ人の間で、中東、中でも武力行使が始まったアフガニスタンを理解したいとの思いは強い。その理解を助けるためにインターネットが大活躍で、多くのウェブサイトが新聞等で紹介されている。幾つかをのぞいてみた。

アフガニスタンの現況を知るには米中央情報局(CIA)の「ワールドファクトブック2001」が詳しい。

国の概況にこうある。“Afghanistan was invaded and occupied by the Soviet Union in 1979. The USSR was forced to withdraw 10 years later by anti-communist mujahidin forces supplied and trained by the US, Saudi Arabia, Pakistan, and others. Fighting subsequently continued among the various mujahidin factions, but the fundamentalist Islamic Taliban movement has been able to seize most of the country. In addition to the continuing civil strife, the country suffers from enormous poverty, a crumbling infrastructure, and widespread land mines.”

「アフガニスタンは1979年、ソ連によって侵略占領された。ソ連は10年後、米国、サウジアラビア、パキスタンなどの援助と訓練を受けた反共勢力ムジャヒディンによって撤退を余儀なくされた。その後、各派間での内戦状態が続く中、イスラム原理主義組織タリバンが国土の大半を掌握した。内戦に加え、国は極貧にあり、社会基盤は壊滅状態で、国中に地雷が埋まっている」

気象、地形、経済状態など各種データが並ぶ中、“Life expectancy at birth: total population: 46.24 years” 「平均寿命:国民全体:46.24歳」などの数字にこの国の苦境がうかがわれる。

タリバンは、インターネットを反イスラム的として禁止している。大きなアフガン系のコミュニティーがあるカリフォルニア北部に設置された「アフガニスタン・オンライン」では様々な情報が手に入る。ホームページには、アフガニスタンの地図の下に“The Friendliest Country in the World. Possibly the Universe”「世界中、おそらくこの宇宙で最も友好的な国」とある。そのすぐ下に赤い文字で、“Please Note: Afghanistan Online is a private web site operated from within the United States. We are not a government run web site. We do not support any act of terrorism; we condemn it in all its forms.”「注意:アフガニスタン・オンラインは米国内で私的に運営されています。政府が運営するサイトではありません。我々はいかなるテロ行為も支持せず、そのような形のテロも強く非難します」とあった。

政治や歴史などに関する文章も分かりやすいが、興味深いのは文化情報だ。世界に散逸したり破壊されたカブール美術館所蔵品の写真があり、今年初め世界中から批判を浴びたバーミヤン遺跡爆破の映像もある。国歌を聴けるほか、アフガン料理のレシピも。ことわざのセクションでは、5000年の歴史を持つ文化の含蓄のある言葉が並ぶ。“BLOOD CANNOT BE WASHED OUT WITH BLOOD.”「血は血で洗うことができない」といったことわざは、こんなときだけに心に染みる。

同サイトの掲示板は9月11日以降、アフガン各派、パキスタン人、ヒンドゥー教徒、西側好戦派、反戦派などが入り乱れ大騒ぎだ。例えば米軍の対アフガン攻撃開始の日。“SumGavAll: Tell the world that our troops will win for God and country. God Bless America.” 「サムゲイブアール:世界に伝えよう、米軍は神と国のために勝つと。アメリカに神の恵みあれ」とのメッセージに、“Abu-Sayed: We are against Taliban, but we surely are not friends of the USA. Once the Taliban and Islamic FUNDAMENTALISTS are gone, we will continue our resistance against US = Imperialism in the world - without violence” 「アブサイード:我々はタリバンには反対だが、断じてアメリカの友人ではない。タリバンとイスラム原理主義派がいなくなれば、我々がアメリカ帝国主義への抵抗を世界で継続する――暴力を用いずに」と応酬している。

タリバンによる女性への人権抑圧は世界最悪と言われる。77年にカブールで結成された「革命的アフガニスタン女性協会」のウェブサイトでは、タリバンが女性に課した戒律をリストにしている。“Complete ban on women’s work outside the home, which also applies to female teachers, engineers and most professionals.” 「家の外での女性の就業は全面禁止。教師、技師など大半の専門職も同様」、“Ban on women studying at schools, universities or any other educational institution.” 「学校や大学など、いかなる教育機関でも女性の学習は禁止」、“Requirement that women wear a long veil (Burqa), which covers them from head to toe.” 「頭からつま先まで覆う長いベール(ブルカ)着用の義務」、“Whipping of women in public or having non-covered ankles.” 「足首を覆っていない女性は、公衆の面前でむち打ちの罰」など29項目が並ぶ。同時代にこれほど抑圧された女性がいることに愕然とする。

幾つかのサイトでは、タリバン政権下で禁止されたアフガン音楽が聞ける(http://www.afghansongs.comなど)。美しいメロディーを聞くと心から平和を祈りたくなる。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)