熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より
第5回: グルメ
 
"With fresh grilled tuna, I'd probably give it 4 forks."
「焼いた新鮮なマグロを使えば、4本フォーク(満点)あげるのに」


会社の同僚のリチャードはグルメだ。先日、会社近くのタイ料理店でランチを一緒に食べた。注文したエビのカレーがテーブルに来るとしみじみと言う。「俺、20歳になるまでシーフードって食べたことなかったんだよね」。彼はニューヨーク州のロングアイランド出身だ。海に囲まれた場所である。「何を食べて育ったの?」「肉だよ、肉。ステーキとかハンバーガー。それに焼いたジャガイモとゆでたトウモロコシ」と吐き捨てるように答えた。昔の食生活の反動から今はグルメになったと言う。

リチャードが描写したいかにもアメリカ的な食事メニューは、自分自身を少しは知的とみなす人々には人気がない。洗練のかけらもなく、健康にも悪い。こういうメニューから脱皮し、食へのこだわりを主張することは、インテリの証明といった感がある。

そんなリチャード推薦のサイトが「エピキュリアス・コム」。2冊のグルメ雑誌の共同サイトで、雑誌から転載された1200種以上のレシピが検索できる。彼はここでせっせとレシピを探し、週末に奥さんと2人の子供に振舞っているそうだ。

私も夏向きのさっぱりした一品を作ろうか。

このサイトのサーチページに行く。検索項目で"Main Ingredients" 「主材料」の好み、"Preparation" 「調理法」の種類、"Season or Occasion" 「季節または行事」などを選び、結局たどりついたのはこの一品だ。"Mediterranean Tuna, Potato, Olive, and Feta Salad with Garlic Dressing" 「ツナとジャガイモ、オリーブとフェタチーズの地中海風サラダニンニクドレッシングあえ」。"two 6-ounce cans solid white tuna in water, 1 1/2 pounds small red potatoes..." 「6オンスの水煮ツナ缶2缶、小さめの赤ジャガイモ1.5ポンド…」とまず材料がリストアップされているのは料理の本と変わらない。

そして作り方が続く。

"Separate garlic cloves, leaving skins intact. In a large kettle cover potatoes with salted water by 2 inches and add garlic. Simmer potatoes and garlic until potatoes are just tender, about 20 minutes..." 「ニンニクを小片に分け薄皮はそのまま残す。大きななべに塩水を底から2インチ入れ、ジャガイモとニンニクを入れる。ジャガイモが軟らかくなるまで弱火でイモとニンニクを約20分ゆでる…」。グルメサイトの割には、作り方が懇切丁寧に書いてある。

例えば"Cut bell pepper into 1/4-inch dice and halve cucumber lengthwise. Seed cucumber and diagonally cut into 1/4-inch-thick slices. Pit and chop olives. Vegetables and olives may be prepared up to this point 4 hours ahead and chilled separately, covered." 「ピーマンを0.25インチ大の角切りにし、キュウリはタテに二分する。キュウリの種を取り除き、対角に0.25インチの厚みに切る。オリーブの種を取り、粗く切る。これら野菜とオリーブは出来上がる4時間前に用意し、別々にふたをして冷やしておくこと」と、手取り足取りだ。

このサイトではレシピごとに実際に作った読者からの書き込みができる。このレシピには4本の書き込みがあった。

"Pam from Ft. Walton Beach, FL : A very good recipe for a light summer meal... a delicious mixture of flavors and very different from the usual. With fresh grilled tuna, I'd probably give it 4 forks." 「フロリダ州フォートワルトンビーチのパムより:夏の軽い食事に最適。材料のフレーバーの愛称がよく、普通のサラダと違う。焼いた新鮮なマグロを使えば、4本フォーク(満点)あげるのに」。各レシピに点をつけることができ、1点は1本のフォークのマークで示される。彼女の採点だとこの一皿は3フォーク半だった。

さらに、もう1つ。"Chef Pookie from Brooklyn, NY: This was the best salad I've had in a long time. I boiled the potatoes with garlic, then used roasted garlic in the dressing, and substituted ricotta salsa for the feta cheese. My mother who dislikes vegetables, ate this." 「ニューヨーク州ブルックリンのシェフ・プーキーより:こんなおいしいサラダは久しぶり。ニンニクはジャガイモとゆでたけど、ドレッシングには焼いたニンニクを使った。フェタチーズの代わりにリコッタサルサを。野菜嫌いの母が、これは食べました」。お母さんの食への気遣いがほほえましい。

さて、グルメのリチャードは当然、レストラン探しにも夢中である。彼が使うのは、レストラン批評では定評がある年刊誌ザガットのサイトだ。スシを食べたいというのでボストン界隈で調べると、評判が良いのはスシ店Ginza。こんな評が出ている。

"Rated the N0.1 Japanese in Boston, this 'bit of Tokyo' in Chinatown and Brookline will 'make you wonder why food should ever be cooked' after just one bite of its 'amazing' sushi, 'artistically presented,' the Hudson Street flagship is 'hip and crowded,' despite somewhat 'sterile' surroundings, so expect 'long waits.'" 「ボストンで一番の店と定評がある。中華街とブルックラインに店舗がある『東京風』のこの店で、『驚くばかりにすばらしい』『芸術的に盛り付けられた』スシを一口食べると、『食べ物というものはあれこれ料理される必要があるのか』と疑問を抱かされる。『ぱっとしない』地区にあるが『行列』は避けられない」。評の中の引用は読者からの投稿部分だ。

私はこの店に何度も行った。実においしかった。リチャードに薦めると、彼は一日、大人になって覚えたシーフードの魅力にとりつかれ上の空だった。


(時事通信社 世界週報 2001年7月24日)