熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2002年10月29日号
第36回: ザ・ソプラノズ
 
"Which “Sopranos” character will get whacked this season?"
「今シーズンの『ザ・ソプラノズ』でどの登場人物が殺されるでしょう」


9月上旬、ケーブルテレビ局HBOの人気ドラマ「ザ・ソプラノズ」の第4シーズンが1年4カ月ぶりに再開した。この夏はその話題で持ち切りだった。あらゆる場所に看板やポスターが張られメディアも大騒ぎ。1999年に始まったこのシリーズ、実は私は見たことがなかった。家にケーブルがないのだ。しかし、ここまで大騒ぎだと見たくなる。日本でも衛星放送で過去のシリーズが放送されたので、東京の友人もEメールで新シリーズについて尋ねてくる。

ウェブサイトでまず情報を仕入れなくては。この夏、タイム誌ウェブ版が組んだ特集ぺージに行く。メーン記事はこう始まる。HBO’s The Sopranos has been called the best TV drama ever and the greatest work of American pop culture in 25 years. 「HBO局の『ザ・ソプラノズ』は過去最高のテレビドラマであり、この25年間にアメリカで生み出された最高のポップカルチャー作品とされている」。知らなかった。

同サイトなどによると、マフィア一味のボス、トニー・ソプラノの仕事や家庭の話が中心らしい。トニーは仕事上でストレスを抱えている上、一男一女の教育、高齢の母親の世話など家庭でも悩みが尽きない。このため精神科医にかかって治療中。そんなトニーを軸にマフィアの日常生活が描かれる。

同サイトの投票コーナーでは、Which “Sopranos” character will get whacked this season? 「今シーズンの『ザ・ソプラノズ』でどの登場人物が殺されるでしょう」と物騒な質問があった。投票ページに行くと10月3日現在で、1万6000人が投票していた。

HBOのウェブサイト上にある同シリーズのオフィシャルサイトに行く。毎回のストーリーやキャラクター紹介のほか、チャットや掲示板、受賞歴、ビデオクリップ、マフィアの歴史、現状など盛りだくさん。毎週放送されるソプラノ家の夕食レシピもある。

キャラクター紹介のページには、それぞれの人物の有名なセリフが冒頭にあった。トニー・ソプラノのセリフはI’m the motherfucking fucking one who calls the shots. 「すべての指図をするのはこの俺様だ」。トニーの気丈な妻カーメラ・ソプラノのセリフはMaybe you pass out because you’re guilty over something. Maybe the fact you stick your dick in anything with a pulse. 「あんたは罪の意識があるからいつでも酔いつぶれるんだよ。何にだってバカみたいにすぐ首を突っ込むんだから」。実はこの翻訳は穏当すぎる。非常に汚い言葉で放送禁止用語満載だ。同番組は契約して申し込むケーブルテレビ局番組のため、放送禁止用語の規制を受けない。言葉のほか性描写や暴力シーンも過激らしい。

同サイトの掲示板で幾つかメッセージを読むと、アメリカでイタリア系であることの話題が非常に多い。コーストさんは、ニューヨーク出身のイタリア系女性で南カリフォルニアに住んでいる。上司に出身地を告げたら嫌がらせを受けたらしい。メッセージにはこうある。

My boss told me I hat an attitude from the day I started the job. Then she mentioned the names of two other people who I knew were Italian from NY and that they had an attitude before she straightened them out. Her stupid husband had the nerve to ask me if any of my relatives were in the Mafia. So stereotypes do exist and I didn’t feel so great when they treated me that way. 「上司は私が仕事を始めた初日から態度が悪かったと言うの。仕事仲間のうち、ニューヨーク出身のイタリア系2人の名前を出し、彼らもこの上司が改めさせるまではひどい態度だったと言ったわ。この上司のばかな夫は、私の親戚にマフィアがいるかと聞いたのよ。イタリア系に対するステレオタイプは今も強くあるし、こういうふうに扱われるのは本当にいや」とある。シリーズ自体がマフィアのストーリーなので、番組がイタリア系のステレオタイプを強めているのではと思うのだが。

シリーズの舞台はニューヨ−ク市に隣接するニュージャージー州だ。新シーズンが始まった9月15日の翌日はたまたまユダヤ教最大の祝日ヨム・キプールだった。同州出身のユダヤ人の友人ロビンが自宅に帰り、15日の夜に教会で開かれた式典に参加したところ、閑散としていたと言う。「『ザ・ソプラノズ』を見るために誰も教会に来なかったのよ」と嘆いていた。ユダヤ人もマフィアのドラマに夢中なのか。いや、むしろ「ザ・ソプラノズ」はニュージャージー人の誇りなのか。

同州地元紙がつくるサイト、ニュージャージー・コムにも「ザ・ソプラノズ」の特別セクションがあった。同番組は同州でのオールロケなので、これまで番組の舞台になった場所をチェックできる州地図のページがあった。同州最大の都市ジャージーシティーをクリックすると、Uncle Junior’s hangout, the Sit-Tite Lounge, is the A & T Restaurant on Ocean Avenue in Jersey City. In Episode 4, Tony attacks Junior’s henchman Mikey Palmice with a staple gun right around the corner. 「アンクルジュニアがよく行くシットタイトラウンジは、ジャージーシティーのオーシャンアベニューにあるA&Tレストランです。4話目では、そのレストランがある角で、トニーが子分ミッキー・パルミスを襲いました」と、地元サイトらしい試みをしていた。また、地元の警察無線をライブで聞くこともできる。Listen to Jersey City cops fight crime, live and uncensored. Anything can happen out on the streets of the city. 「ジャージーシティー警察が犯罪と戦う模様をライブで聞いてください。ジャージーシティーではどんなことも起こるのです」とある。実際に聞いてみると、アクセントと専門用語だらけで全く理解できなかった。

こういった下調べの末、私もとうとう「ザ・ソプラノズ」の新シリーズを見た。映画のような、お金をかけたぜいたくなつくりということは分かった。しかし、キャラクターにいまひとつ感情移入できない。ヤクザものがはやるのは今に始まったことではないし。魅力が分かるにはもう少し時間がかかるのだろうか。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)